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一ヶ月前、『寄付ってやっぱり難しい』という記事を書いた。これに進展があり、脳内でレベルアップのファンファーレがささやかながら鳴り響いている。
【前回の記事】 寄付ってやっぱり難しい
前回のお話をさらっと紹介すると、
・娘さんの学費を援助してあげたルワンダ人Aさんから、二度目の援助を頼まれたけど断った
・依頼の様子から「仕事はあるのに貯金しようともせず、最初から私を頼ろうと思ってたのではないか」と疑念が湧いた
・断った自分の選択は間違いではないと思いつつも、罪悪感や後ろめたさにもやもやした
これをFacebookに投稿したところ、ケニアのスラム街で長年に渡り支援を行っている早川千晶さんから「その思いをAさんに本音で話してみては」という大変有り難いアドバイスを頂いた。
「あなたがガッカリしたことや、困惑したこと、少しでもお金を貯めることはできなかったのか?など、怒りながらでも渾身込めて本音で話せば、伝わる人には伝わり、その後の人生が変わるきっかけになります」
「例えばですが半額の7000円出すからあとは自分で努力してくれ、と話せば、周りの人からかき集めたりしてなんとかしていくことが多いと思います。私はそうやってこの15年で200名ほどの高校と大学の学費を出してきて、今、このコミュニティの人々のメンタリティにも大きな変化が生まれています。ホンネで付き合えば付き合うほど、必ず希望や変化は生まれます」
15年で200人もの学生やその家族と向き合ってきた、という歴史を想像しただけで気が遠くなりそうだった。私はひとりを相手にするのでさえ、こんなにも消耗しているというのに。
思えばルワンダでのこの5年間は、「絶妙な距離の取り方」をずっと意識してきたように思える。知り合った人とは仲良くなりたいと思うけど、踏み込みすぎると衝突する可能性があるから、程よいところで立ち止まっていた。実際に問題が生じたときは、「まあしょうがないよね。文化も価値観も違うんだし」と言い聞かせて、ハナから分かり合うことを諦めていた。
だから早川さんの積み重ねてきた努力の一端を垣間見て、なんて自分は小さい人間なんだと思ったし、自分もそんなふうになりたいと思った。しかも折衷案のひとつとして「半額を出すからあとは自分で努力してくれ」というアイデアまでいただいた。それなら自分にもできそうだ。
さっそくグーグル翻訳に頼りながら、ルワンダ語と英語で自分の思いの丈をAさんにぶつけてみた。すると、やはり半額の7000円でも捻出するのは難しいということだった。最近仕事にありつけて、毎月収入が入るようになったものの、5人の子どもを養っていることもありほとんど生活費に消えてしまうのだそうだ。
それは想定の範囲内。だけど、そうなると全額出してあげないといけないのか。また1万円以上の出費となると、気軽に出せる金額ではない。そこで妻に提案してもらったのが「貸す」という方法。
正直、目からウロコだった。そんな方法があったのかと。いや、ちょっと考えればすぐ出てきそうな手段ではあるんだけど、ルワンダでは「貸して」ではなく、たいてい「ちょうだい」としか言われないから思いつきもしなかったのだ。
そこで、「いったん全額出すから、毎月1000円ずつ返してもらえないか」と提案してみた。すると、それならできる、と返事が返ってきた。交渉成立。さらに「毎月26日に給料が入るから、それ以降にノリにお金を返すよ」と期日の約束もしてくれた。こうして、現地の人と絶妙な距離感を保っていた私は、話し合って、理解し合って、すこしだけ距離を縮めることができたのだ。
そしてそんなに悩んでいたこともすっかり忘れていた約1ヶ月後(こういうところが我ながらおめでたい性格だと思う)、スマホにメッセージが入った。なにかと思えば、Aさんから1000円が送金されたという通知だった。驚いて日付を見てみると、その日は27日。なんと給料日である26日の翌日にさっそく送金してくれたのだ。約束通り。
これはうれしかった。正直、お金を返してもらえない可能性も十二分にあると思っていた。返してもらえなくても仕方がないと覚悟していた。それでも、こちらからリマインドすらしていないのに向こうから送ってきてくれたのだ。こんなこと、めったにあるものではない。興奮しながら震える手で「お金受け取ったよ。ありがとう」とメッセージを送ると、「本当に良かった。本当にありがとう」と返事がきて思わずじんとしてしまった。
まだこのやり取りを1年くらい続けないと返済は終わらないけど、これは自分にとってとてもとても大きな進歩。早川さんのおっしゃっていた「ホンネで付き合えば付き合うほど、必ず希望や変化は生まれます」という言葉の意味が、すこしだけわかったような気がする。
そしてなにより、Aさんの娘さんが学業を続けられるようになって本当によかった。2学期開始後、学校に戻ってこない学生たちが大勢いて、子どもたちを学校に戻すよう保護者に呼びかけるキャンペーンがおこなわれているというニュースを見た。学費を払えないことが最大の理由だが、なかにはお金があっても学費以外のことに使いたいという親もいるそうだ。そう考えたら、わざわざ私の自宅まで何度も来てお金を工面したAさんは、なんと娘思いで立派な父親だろう。
人の人生は、まわりの人との出会いでいかようにも変わる。家族、友人、先生、同僚ーーひとりの人生が変われば、そのまわりの人生も変わっていく。そんな連鎖のなかで、せめて出会ったひと握りの人たちにだけでも、良い変化を与えられる人間であれたらと、そう願っている。
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