疑うは善、信じるは悪

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今日のお昼、妻がトマトクリームパスタをつくってくれている最中、ガスが切れてしまった。ルワンダでは、日本で一般的な都市ガスとは違い、ボンベとコンロをつないで使うプロパンガスが主流だ。だから時々ボンベの交換が必要になるのだ。そのとたん、ポケモンのドガースのようなくすんだ紫色の予感が頭をよぎった。「騙されたのではないか……?」と。こんなに早くガス欠になるなんておかしい。前回ガスを買ったときに、ボンベの中身が満タンではないものを掴まされたのかもしれない。だって、ボンベを交換したの、ついこの前だよね?妻が前に住んでいたモザンビークでも、実際にそういうことがあってガスの購入先を変えたことがあるそうだ。だからここキガリにもそんなせせこましいガス屋さんがいてもおかしくはない。

私の心のドガースはマタドガスに進化して、「買い物履歴を見返すドガス」と語りかけてくる。その声にしたがって、ふだんから夫婦でせっせと記録している家計簿アプリをさかのぼって見てみた。すると、ガスを買った日付は、「6月10日」「8月14日」「10月22日」となっている。そして今日は「12月12日」だ。おおむね2ヶ月おきに買っていて、今回もほぼ2ヶ月経っている。……つまり、いつもより若干早いとはいえ、騙されたと大騒ぎするほどの差ではなかった。心の中で「時が経つのは、早いねえ」とバツの悪さをごまかすと、むくむくと肥大していたマタドガスは「むやみに人を疑っちゃだめドガス」と言わんばかりの顔で、しぼんでいった。

幸い新しいボンベはすぐに運んでもらえて料理は無事に完成した。ガスのわちゃわちゃですこしだけ伸びてしまったトマトクリームパスタを美味しく頬張りながら、「すぐ人を疑うようになっちゃったなあ」と思った。今回だけではないのだ。ルワンダで暮らし始めて5年になるが、日本にいたときよりも圧倒的に人を疑うことが増えている。買い物をするときはぼったくられていないか、親切にしてくれるのは下心があるからじゃないか、教えてもらった道案内の情報は本当に正しいのか。こういった自衛意識をもっていないと、不利益を被ってしまうこともあるのだから仕方がない。だって当然のように上乗せした値段を言ってくる人もいれば、ムズング(ルワンダでの外国人の呼称)の立場や財力を利用しようとしてくる人もいるし、たとえ悪意はなくとも懇切丁寧に全然違う道を教えてくる人もいるのだから。とはいえ、人を疑うということは気持ちの良いものではない。自分って、こんなに性格が悪かったっけとすこしヘコむ。

そんな気持ちが、漫画『ライアーゲーム』を読んでちょっとだけ救われた。主人公の天才詐欺師・秋山が、もうひとりの主人公で超お人好しのナオに対してこんなセリフを投げかける。

人は 疑うべきだよ
多くの人は誤解している
「人を疑う」とは つまり その人間を知ろうとする行為
「信じる」 その行為は紛れもなく高尚な事だ…
だがね 多くの人間が「信じる」の名の下に やってる行為は実は
他人を知る事の放棄 言い替えれば 無関心……だ
引用:ライアーゲーム

疑うことは、相手を知ろうとすること。無条件に信じることは、相手を知ることの放棄であり、無関心。だから、人は疑うべき。……なるほど!人を疑うことは、決して悪いことじゃないんだ。たしかに「無関心」は、相手に対してもっとも冷酷な態度かもしれない。たとえばSNSで誹謗中傷を受けたときは、スルーするのが一番だとよく聞く。反論したり否定したりすると、かまってほしい相手をむしろよろこばせてしまうからだ。とはいえ嫌な相手には無関心でもいいが、誰にでもそんな塩対応をしたいわけではない。相手を知りたい、歩み寄りたいと思う場合には、一見ネガティブに見える「疑う」という行為が役立つのだ。

以前、ルワンダ人の知人に買い物を手伝ってもらった。品物を決め、お会計をするときにその知人は引くほど強気で値切り始めた。「2000円で」と言われたのに、知人は「いや、1000円だ」となんと半額を提示している。「じゃあ1800円で」「いや、1000円だ」そんな応酬が続いていた。知人は頑なに1000円の主張を曲げなかったが、臆病な私は「そんなに値切ったら、お店の人が嫌な気持ちになるかも」と心配になったので、「いいよいいよ、大丈夫だから」と言って、1500円で決着をつけてもらった。帰り道、「買い物を手伝ってくれてありがとう。おかげで安く手に入ったよ」と伝えると、知人は「どういたしまして。ああやって値切るのはルワンダの文化なんだよ。お店が最初に高めの値段を出してくるから、こっちはもっと安い値段で交渉するんだ」と教えてくれた。いや、だとしてもあの値切り交渉はやりすぎだろ、お店の人だいぶ困ってたよと思いつつも、そういうものなのかと納得した。そしてそれからは私もすこしだけ堂々と値切ることができるようになった。

知人は値段交渉はルワンダの文化だと言った。言い替えれば「マナー」とも言えるかもしれない。つまり、相手の提示した金額を鵜呑みにせずに「本当はもっと安くできるのでは?」と疑って値切ることが、ここでは当たり前なのだ。すこしずつ歩み寄って、双方が納得のいく価格で合意する。これはある意味、「疑う」ことを通じて行われるとても人間らしいコミュニケーションだ。最初は疑うことで自己嫌悪を感じてしまうこともあったが、もっとポジティブに考えても良さそうだ。もっと前向きに疑い、人を知り、世界の解像度を上げていこう。でも、カレンダーの「2月12日」には「ガス切れるころ」と書いておこう。

書いた人:タケダノリヒロ
アフリカのルワンダでスタディツアーや情報発信をする会社を経営しつつ、国際協力機関にもコンサルタントとして勤務。妻とふたり暮らし。身長と体重と年齢がテイラー・スウィフトと同じ。

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