向き合うのでなく、同じ方向を向いて歩くこと

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「私、この時間結構好きなんだよね」と妻が言った。「この時間」と言うのは、外食したあと夜道を家まで歩いて帰る時間のことだ。

近隣国では夜道を歩くなんてもってのほか、と言うほど危ない地域もあるが、私たちが住んでいるルワンダは「アフリカでもっとも治安の良い国」という呼び声も高い。もちろんそれでも注意は必要だが、少なくとも5年ほど住んで危ない目に遭ったことは一度もない。クリスマスの今日は、友人夫婦とホテルのビュッフェをこれでもかとお腹に詰め込んできた。ふだんよりすこしお洒落をしてたからか、その帰り道にすれ違った10代後半の女の子に「素敵なカップルね(You are so beautiful couple.)」と言われ思わず笑ってしまった。驚きつつも笑顔で「サンキュー」と返せたけど、「あなたも素敵ですよ」くらい言えたら良かったな。それくらい平和な国だ。

日中は陽射しが強くて歩くだけで消耗してしまうことも多いけど、夜ならひんやりした空気の中を快適に歩ける。夜景も綺麗だ。ネオン広告やギラギラした装飾の建物がほとんどなく、あたたかいオレンジとスッとした白の統一感ある灯りがつつましく輝いている。「千の丘の国」と呼ばれるほど起伏が激しいので、丘の上から向こうの丘を眺めると視界の下半分がキラキラの波で埋め尽くされる。

そんな夜道をふたりで歩く。大体30分から1時間くらい。「そんなにかかるならタクシー使えば?」と思われるかもしれないが、ふたりで話しながら歩けば特に苦ではないのだ。まあ家についた瞬間に「あー歩いたー」とソファにダイブしたくなることもあるけど、意外とあっという間だ。

私たち夫婦はあまりおしゃべりではない。ふたりでいても、無言の時間の方が多いくらい。でも夜道を歩くときは別。いつもより会話が弾むのだ。あの料理美味しかったね、あの人のこの話が面白かったね、でもサービスがイマイチだったね、などと新鮮な話題が増えるからかもしれない。景色もゆっくり流れるから、こんなお店あったんだ、あの人のファッションお洒落だね、見て!アボカドがなってる、とお互いの発見を共有できるのもおもしろい。日本に帰ったら自然を感じられるところに住みたいよね、美味しいご飯目当てに遠出するのもいいよね、仕事はこんなふうにしていきたいなあ、と「これから」の話をすることも多い。

昔、北軽井沢のキャンプ場で住み込みのバイトをしていたとき、そこの社長が「向き合うのではなく、同じ方向を向くことが大事だ」と言っていた。そこではハルちゃんという名前の羊が飼われていて、その真理は社長がハルちゃんと戯れているときに悟ったらしい。向き合っているときはハルちゃんが何を見ているかは分からないけど、同じ方向を向いたときに彼女が見ている景色がわかる。そして何を考えているか推測することができる。だから同僚とも、お客さんとも、同じ方向を向いていきましょう、と。そんな話だった気がするが、8割はいま思い出しながら適当に書いたため、ルワンダのキミロンコ市場の客引きぐらい軽く受け流してほしい。ルワンダの人たちは大人しく控えめな人が多いが、その市場では商魂たくましく「カワイイ、カワイイ」と日本語でビーズのアクセサリーや木彫りの像などを売りつけようとしてくるのでうっとうしいのだ。はいはい、とあしらわないと、とてもあの息苦しいほど狭い通路を抜けることはできない。

話が逸れたけど、とにかく「向き合うのではなく、同じ方向を向くこと」が大事なのだ。家にいると文字どおり向き合う時間が長くなり、それゆえに反発し合ってしまうことも。でも夜の帰り道は同じ方向を向いているから、一緒に歩いていくことができる。ときにぬかるみに足をつっこんでしまったり、上り坂で疲れてしまったりするけれど、これからも同じペースで歩いていけたらと、そう思う。

ちなみに『星の王子さま』のサン・テグジュペリも「愛はお互いを見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見つめることである」と言ったらしいけど、その例えはキザすぎるからタケダ家としてはこれからもハルちゃんの教えを守っていきたい。

書いた人:タケダノリヒロ
アフリカのルワンダでスタディツアーや情報発信をする会社を経営しつつ、国際協力機関にもコンサルタントとして勤務。妻とふたり暮らし。身長と体重と年齢がテイラー・スウィフトと同じ。

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