ミスチル『サイン』『しるし』の共通点~歌詞の意味徹底解釈~

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【更新 2018/01/16】タケダノリヒロ( @NoReHero

ミスチルの歌詞解釈シリーズ。

今回はミスチルのラブソングを代表する2曲『Sign』と『しるし』です。

「Sign」は日本語で「しるし」という意味にも取れたり、ドラマの主題歌として書き下ろされていたりと、なにかと共通点の多い2曲。

関連性をもたせてつくられたわけではなさそうですが、「桜井和寿」というおなじ人物がつくった曲なので、彼の根底にある人生哲学のようなものが共通して潜んでいてもおかしくはないですよね。

それぞれの歌詞の意味と、共通点を考察してみました。

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ミスチル『サイン』歌詞の意味考察

『Sign』は2004年に発売された26枚目のシングル。アルバム『I♥You』に収録されています。

TBS系ドラマ『オレンジデイズ』の主題歌として、桜井さんが台本を読んで書き下ろされました。

『オレンジデイズ』は、妻夫木聡演じる大学生と、病気で聴覚を失い心を閉ざしてしまった女性(柴咲コウ)とのラブストーリーを軸に描かれる若者の青春ドラマです。

このドラマは妻夫木聡や柴咲コウなど、おもな登場人物が「当て書き」(先に役者を決めてから、その役者をイメージしながら台本を書くこと)でつくられました(参考:Wikipedia

その台本を読んで桜井さんが曲をつくったので、この歌に出てくる「僕」と「君」も『オレンジデイズ』の結城櫂と萩尾沙絵(妻夫木聡と柴咲コウ)をイメージしながら聴くとものすごくしっくりきます

「ありがとう」と「ごめんね」

ドラマのなかで、ふたりは何度も反発しながら関係を深めていきます。そこで繰り返されるのが「ありがとう」と「ごめんね」の手話

「ありがとう」と「ごめんね」を繰り返して僕ら

人恋しさを積み木みたいに乗せてゆく

これが互いを大切に思いながらも傷つけあってしまうふたりの関係を象徴的に表しています。

「積み木」は不安定な気持ちや関係性のメタファー(隠喩)ですよね。ちょっと押せばガラガラと崩れてしまう。それでも相手に対する恋しさや愛しさをひとつずつ積み重ねていくんですね。

「サイン」とは

サビの歌詞。

ありふれた時間が愛しく思えたら
それは“愛の仕業”と 小さく笑った

君が見せる仕草
僕に向けられてるサイン

もう 何ひとつ見落とさない
そんなことを考えている

ここでタイトルになっている「サイン」ということばが出てきます。

サインとは「僕に向けられている、君が見せる仕草」のことなんですね。

ちなみに、「手話」は英語で「Sign language」なので、手話が重要な役割を果たすこのドラマのストーリーにも沿ったタイトルになっています。

相手との関係が深まってくると、一緒にごはんを食べたり、テレビを見たり、買い物をしたり、そんな「ありふれた時間」でさえも「愛しく思え」るもの。これが「愛の仕業」というやつ。

そんな日常のなかで相手が見せる仕草のひとつひとつに、嬉しい、悲しい、楽しい、寂しいといった感情が潜んでいます。

「もう何ひとつ見落とさない」や「ごめんね」というフレーズからは、「僕」が「君」の大事なサインを見落としていたことを後悔し、反省していることが伺えます。

そうやって「僕」は成長していくんですね。

ミスチル『しるし』歌詞の意味考察

『しるし』は2006年に発売された、29枚目のシングル。アルバム『HOME』に収録されています。

ミスチルの曲としては『Sign』以来、2年ぶりにドラマ主題歌として『14歳の母』に起用されました。これも桜井さんがドラマの脚本を読んで書き下ろしたもの。

『14歳の母』は文字通り、未成年の妊娠と出産をテーマにした社会派ドラマです。

しかし『しるし』が「14歳の母」と「その子ども」の愛情を描いたものかと言うと、それだけではありません。

桜井さんはこんなコメントを発表しています。

愛情が高まった2人の物語なのか、離れ離れになる2人の物語なのか。そのどちらとも受け取れるラブソングです。両極の物語の中心にある“愛”とかいうもの、それを実感してもらえたらと願っています。最高のラブソングができました

引用元:ORICON NEWS

「愛情が高まった2人」「離れ離れになる2人」そのどちらとも受け取れるようにしたと。

だから親子間の愛でもあるし、夫婦や恋人同士の愛でもあれば、大切な人を亡くしてしまった人の心情にも重なります。

そういった意味で「最高のラブソング」なんですね。

桜井さんの常人離れしたことば選び

『しるし』では、「どうやったらこんなフレーズ思いつくの!?」っていう、桜井さんの類まれなる言語センスが爆発しています。

左脳に書いた手紙

どんな言葉を選んでも どこか嘘っぽいんだ
左脳に書いた手紙 ぐちゃぐちゃに丸めて捨てる

心の声は君に届くのかな? 沈黙の歌に乗って・・・

「右脳」が感情を司るのに対して、「左脳」が担うのは思考や論理です。

それを「ぐちゃぐちゃに丸めて捨てる」。つまり、「君」に対してあれこれ思いを巡らせ、それを言葉にしようと頭で考えたところで、ぜんぶ「嘘っぽい」ものになってしまうということ。

だから「心の声」を「沈黙の歌」にのせて、思いをつのらせているんです。

「ダーリン」による押韻

サビ頭の「ダーリンダーリン」という歌詞。これを活用して、その後にも「半信半疑」「カレンダーに」「泣いたり」と韻が踏まれています。

何度も何度も「ダーリン」で韻を踏まれたらくどく感じてしまいそうですが、おなじメロディーのところで韻を踏みつつことばを変えているので、すごく耳に馴染みます。

半信半疑=傷つかないための予防線

ほんとそうだなあと思うのがこれ。

「半信半疑=傷つかない為の予防線」

今、微妙なニュアンスで 君は示そうとしている

「半信半疑=傷つかない為の予防線」。

これは特に夫婦やカップル間における愛に当てはまりますよね。

なにも裏切る・裏切らないという大げさなケースだけではありません。

“「愛してる」って言ったら相手もちゃんと「愛してる」って返してくれるかな”とか、

“寂しいけど「寂しい」って言ったら、相手に鬱陶しいと思われないかな”とか、

“ほんとは電話したいけど、「仕事で疲れてるからまたこんど」って言われたらいやだな”とか。

相手に全幅の信頼をおいて「愛してる」とか「寂しい」とか素直に言えればいいんですが、どんなに深い関係の相手であっても他人は他人です。

だから、信じればいいものを、半信半疑になって傷つかないように予防線を張ってしまうんですね。

「しるし」とは

で、問題は「しるしとはなんぞや」ってとこです。

「しるし」ということばは、後半大サビの前に出てきます。

泣いたり笑ったり 不安定な想いだけど

それが君と僕のしるし

しるしとは「『君』と『僕』というふたりだからこそ生まれる感情のゆらぎ」だと解釈できます。

笑ったり泣いたりする感情に色があるとすれば、その色は相手によって微妙に異なりますよね。

恋人と笑う時の感情は淡くてやさしい黄色、友だちと笑う時の感情はくっきり強い黄色、とか。

その色(感情)はその人としか生まれないから、その感情が存在していることが「君」と「僕」の間にある関係性の「しるし」(証明)なんだよってことなんだと思います。

深い。

『サイン』と『しるし』の共通点

この記事の冒頭で、『Sign』と『しるし』の歌詞には共通点があると述べました。それを具体的に見ていきましょう。

「新芽みたいな音符」と「心の声」

『Sign』

届いてくれるといいな
君の分かんないところで 僕も今奏でてるよ
育たないで萎れてた新芽みたいな音符(おもい)を
二つ重ねて鳴らすハーモニー

『しるし』

心の声は君に届くのかな? 沈黙の歌に乗って・・・

届けたくてもなかなか届けられない気持ちを、「心の声」として「君の分かんないところ」で歌い奏でています。

「積み木」と「不安定な想い」

『Sign』

人恋しさを積み木みたいに乗せてゆく

『しるし』

泣いたり笑ったり 不安定な想いだけど
それが君と僕のしるし

「積み木」は、「不安定な想い」の隠喩。

似ている君と僕

『Sign』

似てるけどどこか違う だけど同じ匂い
身体でも心でもなく愛している

『しるし』

「同じ顔をしてる」と 誰かが冷やかした写真
僕らは似ているのかなぁ?
それとも似てきたのかなぁ?

似てるけど、まったくおなじではない「君」と「僕」。もとから似ているのか、それとも似てきたのか。

離れ離れになる日

『Sign』

緑道の木漏れ日が君に当たって揺れる
時間の美しさと残酷さを知る

残された時間が僕らにはあるから
大切にしなきゃと 小さく笑った

『しるし』

 共に生きれない日が来たって
どうせ愛してしまうと思うんだ

両曲ともに、離れ離れになる日が暗示されています。

ありふれた時間の愛おしさ

『Sign』

ありふれた時間が愛しく思えたら
それは“愛の仕業”と 小さく笑った

『しるし』

ダーリンダーリン いろんな顔を持つ君を知ってるよ
何をして過ごしていたって 思い出して苦しくなるんだ
カレンダーに記入した いくつもの記念日より
小刻みに鮮明に僕の記憶を埋め尽くす

急に脱線しますが、『しるし』のこの歌詞では『ドラえもん のび太の結婚前夜』を思い出してしまいました。

しずかちゃんがお嫁に行くときに、しずかちゃんパパが娘の泣いたり笑ったりする成長過程を思い返しながら「君が生まれてきてくれたことが最高の贈り物なんだよ」と言うシーン(あれは泣ける…)。

もちろん誕生日や卒業式、成人式などハレの日も「君」と「僕」にとっては大事ですが、それよりも「僕の記憶を埋め尽くす」「小刻み」で「鮮明」な「ありふれた時間」が「愛しく思え」るんですね。

このように『Sign』と『しるし』には、気持ちや関係性は不安定で儚いものであること、ありふれた時間こそが重要であることなど、多くの共通する人生観を見出すことができます。

ミスチルの数あるラブソングのなかでも特に人気の高いこの2曲。

もういちど聴き比べてみてはいかがでしょうか。


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