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【2018/01/07 更新】 タケダノリヒロ( @NoReHero)
児童文学の最高傑作との呼び声も高い、ミヒャエル・エンデの『モモ』。これは大人こそ読むべき小説だと思います。
「時間」とはなにか、自分の人生において大切なものはなにか、考えさせられる名作です。
大人になると忘れがちな生きる上で大事なこと4つと、特に印象的だったセリフを紹介します。
もくじ
『モモ』あらすじ
『モモ』がどんな作品かひとことで言うと、副題にもある通り、
時間どろぼうと ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語
です。
主人公の女の子「モモ」がとある町にやってきて、そこの住人たちと友だちになり、はじめは仲良く暮らしています。
ところが、ある日「時間どろぼう」である「灰色の男たち」がやってきて、住人たちの時間をうばって大ピンチに。
そこでモモが仲間たちと立ち上がって、灰色の男たちと対決するというストーリーです。
『モモ』読書感想文
とは言っても、ただ単に悪者をやっつけるという単純な勧善懲悪ストーリーではありません。
『モモ』の見どころは、その世界観と風刺の効いた現代社会への問題提起です。訳者の大島かおりさんのあとがきに、その魅力が端的に示されています。
この本には、探偵小説のようなスリルと、空想科学小説的なファンタジーと、時代へのするどい風刺があふれています。そしてその全体は、ロマン主義的な純粋な詩的夢幻の世界、深くゆたかな人生の真実を告知する童話の世界の中に、すっぽりとつつみこまれています。
引用元:『モモ』ミヒャエル・エンデ作、大島かおり訳
ぼくも登場人物の子どもたちが描くファンタジックな世界観の虜になり、その一方で「人生とはなにか?」という問いについて考えさせられました。
人生で大切な4つのこと
主人公のモモには、ひとつだけ特殊な能力があります。それは「聞く」こと。この能力を体験した住民たちにはこのような変化がありました。
(一)ばかな人にもきゅうにまともな考えがうかんできます。
(二)じぶんのどこにそんなものがひそんでいたかとおどろくような考えが、すうっとうかびあがってくるのです。
(三)どうしてよいかわからずに思いまよっていた人は、きゅうにじぶんの意志がはっきりしてきます。
(四)ひっこみじあんの人には、きゅうに目のまえがひらけ、勇気が出てきます。
(五)不幸な人、なやみのある人には、希望とあかるさがわいてきます。
(一)~(五) 引用元:『モモ』ミヒャエル・エンデ作、大島かおり訳
小林良孝氏の論文『ミヒャエル・エンデ著『モモ』の世界構造について』によると、このモモの能力によって、住民の4つの能力が引き出されるとされています。
それは、「愛する」こと、「空想する」こと、「希望する」こと、「信じる」こと。
(一)にあてはまるのは、左官屋のニコラと安居酒屋の亭主ニノである。彼らはモモに話を聞いてもらうことによって、互いに相手を「愛する」能力を身 につけたのである。
(二)と(四)にあてはまるのは、子供たちである。彼らはモモと一緒に居 るだけで、奇想天外な遊びを思いつき、ひっこみ思案な子でも、その遊びに熱 中し、見ちがえるほど勇敢に行動したのである。子供たちはモモと一緒に居る だけで、「空想する」能力や熱中する能力を身につけたのである。
(二)と(三)にあてはまるのは、観光ガイドのジジである。彼もモモと一緒 に居るだけで、彼の空想力は天衣無縫にはばたき始め、自分のやりたいことが はっきりしてきて、あすへ向かって「希望する」能力が生まれてきたのである。
(五)にあてはまるのは、道路掃除夫のベッポじいさんである。彼もモモに 話を聞いてもらうことにより、道路掃除という・仕事の重要さへの信念をますま す深め、道路掃除夫であっても自分はこの世では唯⊥無二の重要な存在である という信念をますます深め、ますます喜々として自分の仕事に着実に励むよう になったのである。つまりベッポは、モモに話を蘭いてもらうことによって、「信 じる」能力をますます強固たらしめたのである。
引用元:小林良孝『ミヒャエル・エンデ著『モモ』の世界構造について』
しかし、これら4つの能力は、灰色の男たちの策略によって、「時間」とともに奪われてしまいます。
時間=生きること=人生
では、この物語のテーマでもある「時間」とは、いったい何なのでしょうか。
エンデは作中でこう語っています。
時間をはかるにはカレンダーや時計がありますが、はかってみたところであまり意味はありません。というのは、だれでも知っているとおり、その時間にどんなことがあったかによって、わずか一時間でも永遠の長さに感じられることもあれば、ほんの一瞬と思えることもあるからです。
なぜなら時間とは、生きるということ、そのものだからです。そして人のいのちは心を住みかとしているからです。引用元:『モモ』ミヒャエル・エンデ作、大島かおり訳
「時間とは、生きるということ、そのもの」
時間=生きること=人生
ということは、灰色の男たちによって「時間」を奪われてしまえば、「人生」そのものを奪われてしまうということになります。
言い換えると、自分の時間を生きられなければ、ほんとうの意味で「生きている」とは言えないということですね。
成功は大事?
灰色の男たちの価値観でもっとも大切なことは、「成功すること」や「ひとかどのものになること」です。
もちろんそれらも重要ですが、それだけを追い求めるとどうなってしまうのかは、観光ガイドのジジが教えてくれました。
灰色の男たちの作戦によって、スターに仕立て上げられたジジ。「ひとかどのものになる」という夢はかなえられたものの、次第に仕事をこなすために信念を曲げ、生きがいのない毎日になってしまいます。
そこで、このひとこと。
モモ、ひとつだけきみに言っておくけどね、人生でいちばん危険なことは、かなえられるはずのない夢が、かなえられてしまうことなんだよ
引用元:『モモ』ミヒャエル・エンデ作、大島かおり訳
ジジは夢をかなえられたものの、まったく幸せにはなれませんでした。灰色の男たちによって、時間とともに大事にしていた「希望する」能力を失い、自分自身に希望をもてなくなってしまったんですね。
自分の時間を生きる
人間に時間を与えるマイスター・ホラは、灰色の男たちの正体についてこう語っています。
「彼らは人間の時間をぬすんで生きている。しかしこの時間は、ほんとうの持ち主からきりはなされると、文字どおり死んでしまう。人間はひとりひとりがそれぞれじぶんの時間をもっている。そしてこの時間は、ほんとうにじぶんのものであるあいだだけ、生きた時間でいられるのだよ。」
「じゃあ灰色の男は、人間じゃないの?」
「いや、人間じゃない。にたすがたをしているだけだ。」
「でもそれじゃ、いったいなんなの?」
「ほんとうはいないはずのものだ。」
「どうしているようになったの?」
「人間が、そういうものの発生をゆるす条件をつくりだしているからだよ。それに乗じて彼らは生まれてきた。そしてこんどは、人間は彼らに支配させるすきまであたえている。それだけで、灰色の男たちはうまうまと支配権をにぎるようになれるのだ。」引用元:『モモ』ミヒャエル・エンデ作、大島かおり訳
「じぶんの時間」を生きられなければ、灰色の男たちのようになってしまいます。
なにについても関心がなくなり、なにをしてもおもしろくない。この無気力はそのうちに消えるどころか、すこしずつはげしくなってゆく。日ごとに、週をかさねるごとに、ひどくなる。気分はますますゆううつになり、心のなかはますますからっぽになり、じぶんにたいしても、世のなかにたいしても、不満がつのってくる。そのうちにこういう感情さえなくなって、およそなにも感じなくなってしまう。なにもかも灰色で、どうでもよくなり、世のなかはすっかりとおのいてしまって、じぶんとはなんのかかわりもないと思えてくる。怒ることもなければ、感激することもなく、よろこぶことも悲しむこともできなくなり、笑うことも泣くこともわすれてしまう。そうなると心のなかはひえきって、もう人も物もいっさい愛することができない。ここまでくると、もう病気はなおる見こみがない。あとにもどることはできないのだよ。うつろな灰色の顔をしてせかせか動きまわるばかりで、灰色の男とそっくりになってしまう。そう、こうなったらもう灰色の男そのものだよ。この病気の名前はね、致死的退屈症というのだ。
引用元:『モモ』ミヒャエル・エンデ作、大島かおり訳
「じぶんの時間」を生きるとは、自分にとって大切なものを抱えて生きるということ。
ニノと二コラにとっては、「愛する」こと
子どもたちにとっては、「空想する」こと
ジジにとっては、「希望する」こと
ベッポにとっては、「信じる」こと
モモは人生におけるこの4つの重要性を教えてくれました。
自分にとってほんとうに大切なものは何なのか、考えさせられます。
『モモ』の名言
最後に、大人だからこそぐさっと刺さる『モモ』の名言を紹介します。
『モモ』ベッポの名言
まずは道路掃除夫ベッポの名言。
「とっても長い道路をうけもつことがあるんだ。おっそろしく長くて、これじゃとてもやりきれない、こう思ってしまう。」
しばらく口をつぐんで、じっとまえのほうを見ていますが、やがてまたつづけます。
「そこでせかせかと働きだす。どんどんスピードをあげてゆく。ときどき目をあげて見るんだが、いつ見てものこりの道路はちっともへっていない。だからもっとすごいいきおいで働きまくる。心配でたまらないんだ。そしてしまいには息がきれて、動けなくなってしまう。道路はまだのこっているのにな。こういうやり方は、いかんのだ。」
ここでしばらくかんがえこみます。それからようやく、さきをつづけます。
「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな?つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ。いつもただつぎのことだけをな。」
またひと休みして、考えこみ、それから、
「するとたのしくなってくる。これがだいじなんだな。たのしければ、仕事がうまくはかどる。こういうふうにやらにゃあだめなんだ。」
そしてまたまた長い休みをとってから、
「ひょっと気がついたときには、一歩一歩すすんできた道路がぜんぶおわっとる。どうやってやりとげたかは、じぶんでもわからんし、息もきれてない。」
ベッポはひとりうなずいて、こうむすびます。
「これがだいじなんだ。」引用元:『モモ』ミヒャエル・エンデ作、大島かおり訳
終わりの見えない道を進んでいたら不安になりますよね。
そんなときは、つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけを考える。
そうすると楽しくなってくる。楽しくないと仕事はうまくできないんだ、というベッポさんの格言でした。
『モモ』ジジの名言
観光ガイドジジの名言。空想の話ばかりしていて、「その話はほんとうか?」と疑われたときのひとこと。
ほんとうだとか、うそだとか、いったいどういうことだい?千年も二千年もむかしにここでどういうことがあったか、知ってるやつがいるってのか?え、あんたたちはどうだい?
引用元:『モモ』ミヒャエル・エンデ作、大島かおり訳
まあ単なる嘘つきなんですがw、こんなこと言われたら「確かにな・・・」と思っちゃいますよね。「ほんとう」とはなにか、「うそ」とはなにか、考えさせられます。
ちなみにこの作品には、「『時間』を『お金』に変換し、利子が利子を生む現代の経済システムに疑問を抱かせるという側面もある」らしいんですが、個人的にあまりしっくりこなかったのでここでは触れてません(参考:Wikipedia)
とはいえ、幻想的な世界のなかで、「時間」について、「人生」について振り返る機会をくれる素敵な小説でした。
小学校高学年の生徒向けの本書ですが、大人にこそ読んでもらいたい一冊です。
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