なぜイギリスは難民移送先にルワンダを選んだか

アフリカのルワンダでスタディツアーや情報発信をしています、タケダノリヒロ(@NoReHero)です。

イギリスで「不法入国者をルワンダに強制移送する」法案が可決されたことが話題になっています。

英 “不法入国者をルワンダに強制移送” 法案が議会で可決|NHK

なぜイギリスは難民移送先にルワンダを選んだのでしょうか。ルワンダへの移送には反対意見も多いようですが、現地に住んでいるわたしからすると反対されるのが不思議なくらい、ルワンダは受け入れ先として適切に思えます。

そもそもルワンダってどんな国?
アフリカの真ん中よりちょっと右下。地域区分では東アフリカにあたる内陸国。

人口は1300万人程度で東京とおなじくらい。もっとも有名なできごとは1994年のジェノサイド(虐殺)。約100万人がなくなった悲惨な事件ですが、そこから毎年7%程度の経済成長を遂げ、「アフリカの奇跡」と呼ばれています。現在では「アフリカでもっとも治安のよい国」と評価されることも多い国に。「IT立国」を目指してテクノロジーを積極的に活用したり、女性議員の割合が世界一多く男女平等でも評価されていたり、経済的にはまだまだアフリカのなかでも中の下くらいですが特色の多い国です。

難民の受け入れ実績

まず、ルワンダには難民の受け入れ実績があります。しかもルワンダ国内で報じられてきた情報を見る限りは、難民に対して手厚いサポートを提供しています。

たとえば、2021年10月、国内最大手メディア The New Timesの記事。

4,000人以上の難民がルワンダで仕事を確保
・4,047人が国内で仕事を確保。ルワンダ社会と労働部門への難民の統合が改善されている
・ルワンダは137,000人以上の難民を受け入れている
・難民の56.3%がコンゴ民主共和国人、43.5%がブルンジ人
・12,332人の難民が雇用創出の訓練を受けた
・就学年齢の全難民は学校教育を受ける資格がある
・44,261人の難民が全国の小学校およびセカンダリースクール(中等学校)に在籍。国の教育プログラムに従いルワンダの子どもと同じクラスで勉強
・キャンプ外に住む都市部の難民に健康保険を提供
・全都市難民が地域密着型の健康保険制度ミトゥエリにアクセスする権利を有する
・9,632人の難民(全体の86.2%)が同保険に加入

まとまった数の人たちが仕事を得られて、雇用創出の訓練も受けて、ルワンダ人の子どもと同様に学校にも通えて、健康保険も提供される。これだけ見れば十分にサポートしていると言っても過言ではないのではないでしょうか。

2019年にはアフリカ諸国からリビアに行って立ち往生していた難民を受け入れています。リビアはエジプトの隣、北アフリカの国です。そこから地中海を渡ればイタリアやギリシャに行けるので、アフリカ諸国からヨーロッパへ行くために難民たちがリビアに集まったのですが、勾留されレイプや拷問を受けたケースもあるそうです。

リビアからの亡命希望者の救出に関する取り決め2年間延長
・ルワンダ政府、UNHCR、アフリカ連合は、リビアからの難民と亡命希望者を受け入れる協定の2年間延長に合意
・2019年9月に緊急輸送メカニズム(EMT)を設立。主に欧州への渡航失敗した移民受け入れ
・ルワンダは、亡命希望者が第三国移住前の一時的な受け入れや、母国への帰国、ルワンダ市民であり続けることへの要求に対応
・延長協定はブゲセラ地区のEMTが2023年末まで運営を継続し、500人の収容人数を700人に増やすことが必要
・2019年9月以来、ルワンダは、エリトリア、スーダン、南スーダン、ソマリア、エチオピア、ナイジェリア、チャド、カメルーンの8つのアフリカ諸国から合計648人の難民と亡命希望者を受け入れ
・彼らはリビアから6回の飛行で到着したが多数が再定住し、現在キャンプに残っているのは281人
・1,680人を超える懸念者がリビア全土の拘留センター内におり、人権団体は 施設でのレイプ、拷問、その他の犯罪を指摘
・ルワンダは欧州諸国が移民規制を強化したため、リビアに閉じ込められたアフリカ難民受け入れを約束
・ルワンダでは医療、学校、仕事にアクセスする権利がある
2021年11月1日、The New Times

2021年にこのニュースを読んだときも、ひどい仕打ちを受けていた人たちに居場所を提供する良い取り組みだと思った記憶があります。

今年2月にはブルンジ難民100名がルワンダから帰国したというニュースが。

約100名のブルンジ難民 ルワンダから9年ぶり帰国
・キャンプで子供の教育費を稼ぐことができた人も
・難民らはルワンダの処遇を称賛
・国内には当時のンクルンジザ大統領へのクーデター未遂に端を発した2015年騒乱から逃れた4万人以上のブルンジ難民が
2024年2月22日、Igihe

このニュースによると、「難民らはルワンダの処遇を称賛」したそうです。

これらの実績を見れば、ルワンダがイギリスから移民を受け入れてもうまくやっていけそうと思えるのではないでしょうか。

移民はまともな暮らしができるか

「でもルワンダって、まだまだ貧しい国なんでしょ?移民たちも貧しい暮らしをさせられるのでは?」という疑問もわいてきそうですが、今回の移民受け入れでルワンダはイギリスからおよそ460億円を受け取るのです(NHK)。

ルワンダ国民のなかにはやっとのことで生計を立てている人たちもまだまだ多いですが、今回の移民たちにはそのお金が(全額ではなかったとしても)使われるはずなので、それ相応の暮らしはできるはずです。

移民が暮らす予定とされるホステルも、写真を見る限りでは立派です。

移民が暮らす予定のHope Hostel(BBC

ルワンダ政府は非人道的?

実績があるとしたら、反対派はなにを批判しているのでしょうか?NHKニュースには下記のように書いてあります。

政府の強権化が進み、政府に批判的な野党の政治家や活動家を弾圧するなどの人権侵害がおきているとも指摘されています。

これはおそらく間違いないでしょう。ただし今回の移民受け入れとそれほど関係があるとは思えません。

ルワンダ政府が人権侵害をおこなっている(とされている)のは、あくまで政府に批判的な野党の政治家や活動家に対して。もっといえば、いまだに民族主義のイデオロギーをもち、虐殺のときのようにツチを排除したいと考えていると思われる人々に対して。

ルワンダ虐殺とツチ・フツ
現在の与党(RPF)はカガメ大統領をはじめルワンダ虐殺で被害者となったツチにルーツをもつ人々が多く、虐殺の加害者となったフツのなかでも潜伏している首謀者の一部や関連組織が国家の安定を脅かす存在として認識されています。
現在ではツチ、フツといった区別はなく、「ルワンダ人はルワンダ人」とされています。しかし、いまだに民族主義のイデオロギーをもち、虐殺のときのようにツチを排除したいと考えていると思われる人々に対しては、非常に厳しい措置が取られるのです。有名な事例でいえば、映画『ホテル・ルワンダ』の主人公モデルがテロリストとして逮捕されたことなど。

つまり、ルワンダ内外で弾圧が起きていたとしても、それは政治的に敵対する者(特にテログループや虐殺の再発につながる因子)に対してであって、移民に対してではないのです。むしろルワンダ政府はその移民を受け入れることによって、イギリスから経済的な恩恵を受取り、友好関係を築くことにもつながることになるので丁重に扱うでしょう。

ただし、「弾圧されているのは無実の活動家で、有力になりえる敵対者を犯罪者に仕立て上げて、政府関係者が保身のために芽をつぶしている」という筋書きが反対派の主張であれば、「そんな非人道的な国にお金を払って移民を預けることはできない」という意見にも納得はできますが。

イギリスとルワンダの関係

今回移民の受け入れに関して、イギリスとルワンダの間でどのような話し合いがもたれたのかは知るところではありませんが、これまでの関係性を見るとルワンダにとってイギリスが重要な国のひとつであることはわかります。

虐殺後最大のドナー

1994年の虐殺以前、イギリスはルワンダが「フランス語圏」であると認識していたため、関与するつもりはありませんでした。しかし1997年にトニー·ブレア政権が発足し、アフリカへの積極的な介入を決定します。

世界におけるイギリスの影響力と帝国の利益を維持するとともに、貧困削減と人権保護を目的としていました。1997年に 「国際開発省 (Department for International Development:DFID)」 が設立され、1999年にはDFIDの大臣がルワンダを訪問。国際社会のジェノサイド防止の失敗を謝罪するとともに、ルワンダ政府の開発計画 「ビジョン 2020」を支援することなどに合意したのです。

その結果、この時代(2000年前後)イギリスはルワンダに対する最大のドナーとなりました。 ルワンダは90年代末までにイギリスから合計1450万ポンド(2400 万ドル) の援助を受け、2000年代に入っても、コンゴやブルンジ、ウガンダよりも多くの援助を受けていました(鶴田、2021年、p.78)。

その後は政策変更などでイギリスの存在感は薄まりましたが、当時から関係性はあったわけです。

英連邦の加盟国

また、ルワンダは2009年に英連邦(コモンウェルス)に加盟しています。

英連邦とはおもに旧英国植民地からなる連合体です。しかしルワンダの旧宗主国はイギリスではなくドイツとベルギー。にもかかわらず、ルワンダは英連邦に加盟したのです。ちなみにルワンダ以外の非英国植民地加盟国はモザンビークのみ。

旧植民地でもないのにわざわざ加盟するほど、ルワンダはイギリスや英語圏の国々との関係性を強めたいという思惑があったのです。

イギリスから見たルワンダは、数ある途上国のひとつかもしれませんが、ルワンダから見たイギリスは特に関係強化したい国のひとつであることは間違いないでしょう。そういった観点から、ルワンダがイギリスに対して「うちで移民を受け入れますよ!」と積極的にアピールしたのかもしれません。

MICE戦略との類似性

今回の移民受け入れの構図に既視感があったのですが、ルワンダが推進しているMICE戦略でした。

「MICE」とは「Meeting」(会議)」「Incentive(報奨旅行)」「Convention/Conference(会議)」「Exhibition/Event(エキシビジョン、イベント)」の略。国際会議などを誘致してそこを起点に収益を得るという観光ビジネスの手法です。

ルワンダはMICEのために「キガリ·コンベンション·センター(Kigali Convention Centre)」を2016年に設立。渦巻き状のドームのような外観で、夜にはルワンダの国旗色である青·黄·緑にライトアップされる、首都キガリのランドマークのひとつです。

コンベンションセンター(左)とラディソンブル(右)|筆者撮影

敷地内には高級ホテルのラディソンブルや高級レストランがあるため、会議に付随して海外のお金持ちたちがここにお金を落としてくれるというわけです。アフリカでもっとも多く国際会議を実施している都市のランキングでは、首都キガリが2位になっています。ちなみに1位は南アフリカのケープタウン(The New Times, 2023年5月30日)。

ルワンダは内陸国で貿易がしづらく、天然資源もそれほど多くないため、MICE戦略を採用しています。

「ただの観光目的ではない外国人を誘致して資金を獲得する」という意味では、移民を受け入れてイギリスからお金をもらう今回の取り組みもおなじと言えます。

移民問題の解決および外交関係の強化につながる移民受け入れを、「新たな外貨獲得手段」としてルワンダが合理的にとらえていたとしてもおかしくはないはずです。人を商品のように捉えることはもちろん恥ずべきことですが、移民が居場所を得られて、ルワンダにもイギリスにもメリットのある三方よしの取り組みになっているのであれば、決して悪い話ではないのではないでしょうか。

まとめ

なぜイギリスが移民受け入れ先にルワンダを選んだかをまとめると、客観的に見れば「ルワンダには難民受け入れの実績があり、適切な対応ができる可能性が高い」という点が大きそうです。

さらに前述のとおり、イギリスから見たルワンダは数ある途上国のひとつかもしれませんが、ルワンダから見たイギリスは特に関係強化したい国のひとつ。そこで実績があり資金がほしいルワンダと、移民問題を解決したいイギリスの利益が合致したのではないでしょうか。

これから本当にルワンダがうまくやっていけるのか、移民の方々がこれ以上つらい想いをせずに済むよう祈りつつ、注目していきたいと思います。

もっとルワンダを知るなら