[:ja]アフリカ・ルワンダ在住のタケダノリヒロ(@NoReHero)です。
調べ物をしていて「ハイパーローカル」という概念を知りました。
響きはちょっとダサいですが「ハイパーローカル・デリバリー」、「ハイパーローカル・メディア」、「ハイパーローカル・SNS(ご近所SNS)」などさまざまな分野で、この超地域密着型のアプローチが数年前から注目されていたようです。
個人的には初耳だったので、ハイパーローカルとは何なのか、実際にどのようなビジネスがあるのか、ある企業がハイパーローカル戦略に失敗した理由、それでもハイパーローカルが注目されている理由、ルワンダにおけるハイパーローカルの現状と可能性など、まとめてみました。
ハイパーローカル・デリバリーとは
まずは宅配分野の「ハイパーローカル・デリバリー」から。
- 2015年ごろ、インドのIT業界(とくにスタートアップ界隈)で話題となった
- 地域よりもさらにせまい範囲の店舗から顧客に対して商品を即時配達するサービス
- 分類は大きく分けて5つ。食料雑貨品、レストランの完成した料理、医薬品、総合(多岐にわたるジャンルの商品を扱う)、BtoB(企業にサービスを提供)
- 2015年1~6月で、インド国内外のベンチャーキャピタルが地場のハイパーローカルデリバリー企業27者に投資(総額1億3500万ドル)するなど盛り上がっている
参考:インドで急成長するハイパーローカルデリバリー「Grofers」(CNET Japan, 2015/10/01)
「地域よりもさらにせまい範囲の店舗」がターゲットとなることから「ハイパーローカル」とされてるんですね。
ハイパーローカル・デリバリー市場に投資が集まっている理由
この市場が注目されている理由は、
- タクシー配車アプリなどが浸透したことにより、消費者がモバイルでオンデマンドサービスを利用することに慣れつつある
- 賃金格差によりデリバリーコストが非常に安い
参考:インドで急成長するハイパーローカルデリバリー「Grofers」(CNET Japan, 2015/10/01)
たしかにタクシー配車アプリ「Uber」を使うのもかなり一般的になってますもんね(インドでは「Ola Cab」ってのがあるらしい)。
ハイパーローカル・デリバリー企業の注目株「Grofers」
このインドのハイパーローカル・デリバリー市場でもっとも注目されているのが「Grofers」という企業。
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- インドのハイパーローカルデリバリーのなかでも、地場のスタートアップでは最高額となる4550万ドルの投資を受けた
- 取扱商品は、食料雑貨品、生鮮食品、電化製品、コスメ用品、子ども用品、ペット用品など
- 2013年12月にBtoBで開始、その後BtoCに転向
- 従業員数は14年12月の180人から、半年で3300人に急増
- デリー、ムンバイ、バンガロールなど27都市をカバー
- 1日あたり平均1万3000オーダー
- 平均購入価格は560ルピー(約1000円)
- 配送料金は45ルピー(約90円)
- 決済手段は、現金、クレジットカード、オンライン決済
- プロモーションコードもあり
- 収益源は「小売店からの販売手数料」と「消費者からのデリバリー料金」(メインは前者)
- 販売手数料→食料雑貨店からは6~7%、パン屋などからは20%
- 注文はWebまたはアプリで
- 注文や配達状況をリアルタイムで確認可能
- 注文から90分以内に受け取り可能
参考:インドで急成長するハイパーローカルデリバリー「Grofers」(CNET Japan, 2015/10/01)
投資額4550万ドルってことは、日本円で45億!
半年で従業員数3,300人ってえげつない成長ぶりですね…。
ビジネス的には収益源を消費者に依存せず、小売店から販売手数料を取ってるのがポイントだと思われます。
小売店からの収益があるから、消費者からそんなに利益を取らなくてもいいんですね。だから配送料金を抑えられるのかな。
その配送料金はたったの90円。わざわざ買い物に行かなくてもその値段で買って持ってきてもらえるならついつい頼んじゃいそうですよね。
しかもプロモーションコードもあるので、なんなら店頭で買うより安くなることもあるとか。
インドの市場背景
- インドには小規模な小売店はたくさんあるが、コンビニのように何でも揃うお店は少ない
- 買い物には車やタクシー、リキシャに乗って行かざるを得ず、時間と体力を消耗する
参考:インドで急成長するハイパーローカルデリバリー「Grofers」(CNET Japan, 2015/10/01)
日本だったらコンビニやスーパーが近くにあるから、わざわざこんなサービスを使わなくてもいいかもしれませんね。
こういった背景があるからこそ、インドではハイパーローカル・デリバリーサービスの需要があると。
小売店のメリット
このビジネスによって、提携しているローカルな小売店にもメリットがあります。
- 大型ショッピングモールの進出や、オンラインショッピングの普及により打撃を受けているローカルの小売店に、新たな販売経路を提供
- 小売店はGrofersのプラットフォーム上に商品を掲載するだけで、地域の消費者にアクセス可能
- 自前で販売網を構築しなくてもGrofersのデリバリー機能で即時配達が可能に
- 売上の30%がGrofers経由という店も
参考:インドで急成長するハイパーローカルデリバリー「Grofers」(CNET Japan, 2015/10/01)
零細小売店にとっては、Grofersの販売網に乗っかれるっていうのが最大のメリットですよね。
Grofersのサイトやアプリ経由でモノが売れていくので、必死こいてお客さんを呼び込まなくてもいいわけです。
Grofersの社会的な意義
Grofersはそのビジネスを通じて社会的な意義も生み出しています。
- インドでは郊外から都市への求人者が多いが、Grofersはデリバリーボーイ3000人の雇用を創出
- 小売店と協力して、インドの劣悪なサプライチェーン問題の解決にも着手
参考:インドで急成長するハイパーローカルデリバリー「Grofers」(CNET Japan, 2015/10/01)
Grofersのサイトはこちら(現在地確認画面が出てきてそこから進めないけど)。
ハイパーローカル・メディアとは
つづいては「ハイパーローカル・メディア」について。
2010年ごろにアメリカのメディアでブームになりましたが、いったん下火に。
しかしその可能性は完全に消えたわけではなさそうです。
- 2010年前後にアメリカのメディア業界でバズワードとなる
- アメリカの地方紙が次々と廃刊になり、新聞の不在を個人ブロガーが地域特化ニュースを提供することで次世代のメディアと騒がれる
- しかし収益が立たず、ものの数年で下火に
- ハイパーローカル・ビジネスは広告セールス部隊に莫大な資金がかかるが、顧客は広告を出す予算もない地元の零細ビジネスだったことが失敗のおもな原因
- ハイパーローカル・メディアで話題となったのがAOLの「パッチ」
参考:ハイパーローカル・メディアはビジネスとして成立しない(イマコレネット, 2012/06/22)
AOLのハイパーローカルサイト「パッチ」
ハイパーローカル・メディアの代表例とされる「パッチ」の例を見てみましょう。
アメリカにあるいろんな地方メディアをまとめたサイトです。
Patch – Everything Local: Breaking News, Events, Discussions
- 2007年、ディム・アームストロングがGoogle在籍中に立ち上げに関わる
- 2009年にアームストロングがAOLに移籍し、買収
- 最盛期に全米900サイト、1400人のスタッフを抱えた
- 3億ドルをつぎ込んだが、13年夏には350人以上を解雇、数百単位でサイトを閉鎖
参考:AOLの「地域サイト」失敗から何が学べるのか(新聞紙学的, 2013/12/18)
一時は900という膨大な数のサイトを傘下にしていたパッチですが、あっというまに衰退してしまいました(なくなったわけではなく、現在も運営中)。
パッチの失敗した理由
「パッチ」が失敗した理由は、専門家らによって次のように語られています。
- ビジネスモデルを作り上げるまえに、900サイトという規模にスケールした
- 地方の独立サイトのネットワークになることもできたのに、旧メディアの発想でサイトを所有した
- コンテンツとユーザーの共有も可能だったのに、秘密主義・自前主義にこだわった
- 地方の広告主への考慮がなかった(値段が高いなど)
- 編集の指導・コントロールができておらず、クオリティにばらつきがあった
- 地域を思うパッションに欠けた
参考:AOLの「地域サイト」失敗から何が学べるのか(新聞紙学的, 2013/12/18)
きちんと収益化できていないのに、規模が大きくなってしまったことが最大の要因のようです。
収益を確保できなかったのは、十分な広告収入が得られなかったため。広告主も地方の人だから広告を出せるほどの余裕がなかったんですね。
ハイパーローカル・メディアの可能性
とは言え、ハイパーローカル・メディアの可能性が完全に潰えたわけではありません。
2013年には、ウォーレン・バフェットやジェフ・ベゾスがこぞってローカル・メディアを買収するという出来事が。
- 2012~2013年、ウォーレン・バフェットが15か月で28のローカル紙を買収
- 2013年、AmazonCEOのジェフ・ベゾスがワシントンポストを買収
参考: Buffett Explains Why He Paid $344 Million For 28 Newspapers, And Thinks The Industry Still Has A Future(Business Insider, 2013/05/01)
参考:ジェフ・ベゾスのワシントンポスト買収の狙いを分析する――インサイダーの視点(HUFFPOST, 2013/10/12)
日本の地方紙もハイパーローカル戦略に注目しているようです。
- 岩手県「東海新報社」は「ハイパーローカル」を標榜し、地域の行動を支えるメディアとして情報発信
参考: 地方新聞は「ハイパーローカルメディア」に進化する 岩手県・大船渡市「東海新報」のチャレンジ(サイボウズ式, 2013/09/11)
Search Engine Landというサイト(英語)では「ハイパーローカル・マーケティングが2017年にクル!」という記事が。
ここでは、Googleでそのビジネスが検索されることを念頭に置いて5つのポイントが挙げられています。
- 基本をマスターすること(「Google My Business」ページの最適化)
- その街とそこで注目されている出来事に焦点を当てること
- もし複数地域にまたがる場合は、それぞれにランディングページをつくること
- ビジネスに関連する「構造化データマークアップ」をコンテンツページに含めること(よく分からんので元サイト読んでくださいw)
- ローカルレベルで進捗を追うこと
要するに「ハイパーローカルは廃れた!ビジネスとして成り立たない!」という人もいれば、「まだこれからだ!」という人もいるってことですね。
ハイパーローカル・SNSとは
「ハイパーローカル」なSNSも世界中で増えてきてます。いわゆる「ご近所SNS」。
- 日本「マチマチ」=近所の人と近隣のお店、イベント、防犯・防災などの情報交換をおこなう
- アメリカ「Nextdoor」、イギリス「streetlife」、オーストリア「FregNebenan」、中国「考拉先生」
- メルカリも地域コミュニティアプリ「アッテ」をリリース
参考:ハイパーローカルな時代だからこそご近所SNSに注目ーー地域にほどよいつながりをもたらす「マチマチ」(マチノコト, 2016/07/14)
ハイパーローカル・SNS発達の理由
なぜご近所SNSがここに来て増えてるんでしょうか。
- 大規模メディアでは行き届かない細かな情報を提供し、廃れてしまったリアルな場での井戸端会議の代替となる
- 地域SNSは以前からあったが、スマホが個人個人に行き渡り、いつでもどこでもネットにアクセスできるようになった
- さまざまなソーシャルメディアが広まり、SNSを通じたコミュニケーションが違和感のないものになった
参考:ハイパーローカルな時代だからこそご近所SNSに注目ーー地域にほどよいつながりをもたらす「マチマチ」(マチノコト, 2016/07/14)
この数年で個々人のモバイル環境は劇的に変化しました。誰もがスマホをもち、誰もがSNSを使うようになったことによって、「ご近所SNS」を受け入れる下地ができたんですね。
ルワンダにおけるハイパーローカル
私はいまアフリカのルワンダに住んでいますが、ルワンダにもハイパーローカル・サービスが存在します。
ハイパーローカル・デリバリーinルワンダ
Webやアプリで注文すると、レストランから完成した料理が届く「Hello food (Jumia Food)」というサービス。
Restaurants Kigali | Commandez vos repas en ligne | Jumia Food
「ハイパーローカル・デリバリー」の5つのカテゴリー(前述)のうち、料理に特化したサービスですね。
私がよく利用する首都キガリの飲食店はほとんどこのサービスに加盟しています。
何箇所か宅配先を変えて注文画面を見てみたところ、どこも宅配料金は1,000RWF(約120円)。ただし、現在は首都キガリ市内のみ。
これキガリに住んでたら絶対多用してたなー…(地方在住なので使えない)。
「Hello food」はいまのところ料理専門のようですが、インドの「Grofers」のような総合宅配サービスが1,000RWFでキガリでも使えたら…
ルワンダの地方であれば、買い物は「イソコ」と呼ばれる市場になんでも置いてあるのでそこに行けば済みます。
しかしキガリの場合、スーパーなどはあるものの数が多くないので場所によっては買い物が大変なところも。
ルワンダでハイパーローカル・デリバリー、ありかも。
ハイパーローカル・メディアinルワンダ
一方、「ハイパーローカル・メディア」はどうかというと、私がこれから力を入れていこうと思っているルワンダ情報専門サイト『ルワンダノオト』もそれに当たるかもと思ってます。
『ルワンダノオト』は超せまい地域というよりはルワンダ全国の情報をカバーするつもりなので、「ハイパーローカル」の定義には当てはまらないかもしれません。
ただ、ターゲットは「ルワンダに興味・関心のある外国人(おもに日本人)」という超ニッチなところなので、ハイパーローカル・メディアの取っている戦略を応用できるはず。
地球の裏側までも一瞬で情報を飛ばせる時代に、逆に「超地域密着」に可能性があるっていうのが面白いですよね。
ということで、「ハイパーローカル」という概念を頭に入れつつ、今後もルワンダでできること考えていきます!
タケダノリヒロ(@NoReHero)
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