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『ボクたちはみんな大人になれなかった』感想~「キミは大丈夫」の心強さ~

燃え殻さんの『ボクたちはみんな大人になれなかった』を読みました。

ボクたちはみんな大人になれなかった

世の中の人間は二種類に分けられます。「不安のために時間を売る人」と「不安を買って旅に出る人」。

多くの人が前者として人生を歩んでいますが、時として後者になるタイミングが訪れます。

主人公は、物語終盤で「ボクはこれからも時間を売る」と語っていますが、人生で唯一「自分より好きになった人」である元カノ・かおりも、唯一の同僚と呼べる存在だった関口も、「不安を買って旅に出る人」になっていきます。

旅立っていく彼らと比較して、自分自身の未来に焦りを感じる主人公。それでも時間を売り続けるという覚悟ができたのは、「成長」を実感できたから。

こうしている間にも、刻々と過去に仕上がっていく今日。達観した彼女の今日も、まだアップダウンを繰り返しているボクの今日も、先に続いているのは未来であって、過去じゃない。どんなに無様でも「大人の階段」は上にしか登れない。その踊り場でぼんやりとしているつもりだったボクも、手すりの間から下を覗いたら、ずいぶん高い場所まできていて、下の方は霞んで見えなかった

引用元:ボクたちはみんな大人になれなかった/燃え殻

”どんなに無様でも「大人の階段」は上にしか登れない”と気付いたんですね。孤独と不安に押しつぶされそうだった、何者でもなかった時代もムダではなかったんだと。

しかしこのような自己肯定感をもてたのは、電車の窓に映った自分の姿を見て「老けたな」と思うほどの年になってから。そう思えるようになるまでの彼を支えてくれたのは、「キミは大丈夫だよ、おもしろいもん」という彼女のことば。

大切な人からの「大丈夫」ほど心強いものはないですよね。たとえその言葉に何の根拠もなかったとしても。

そんな「誰か」の存在が、どれほどかけがえのないものなのかをこの物語は教えてくれます。

「ねえ、努力すれば夢って叶うのかな?」(…)

「その質問は、ナポリタンは作れるか? と一緒だと思う」(…)

「たぶん、手順を踏めば必ず近いものにたどり着くんじゃないかと思う」(…)もし手順通りできたとしても、たとえそれが失敗したとしても、問題はそれを誰と一緒に味わうかなんじゃないか

引用元:ボクたちはみんな大人になれなかった/燃え殻

美味しいもの、美しいもの、面白いものに出会った時、これを知ったら絶対喜ぶなという人が近くにいることを、ボクは幸せと呼びたい

引用元:ボクたちはみんな大人になれなかった/燃え殻

ボクが凸で、君が凹。そんな単純なパズルは世の中にはない。ボクが△で、君は☆だったりする。カチッと合わないそのイビツさを笑うことができていたら、ボクたちは今も一緒にいられたのかもしれない

引用元:ボクたちはみんな大人になれなかった/燃え殻

生きていると言葉なんかじゃ救われない事ばかりだ。ただその時に寄り添ってくれる人がひとりいれば、言葉なんておしまいでいい

引用元:ボクたちはみんな大人になれなかった/燃え殻

村上春樹の『海辺のカフカ』に、こんなシーンがあります。

「昔の世界は男と女ではなく、男男と男女と女女によって成立していた。つまり今の二人ぶんの素材でひとりの人間ができていたんだ。それでみんな満足して、こともなく暮らしていた。ところが神様が刃物を使って全員を半分に割ってしまった。きれいにまっぷたつに。その結果、世の中は男と女だけになり、人々はあるべき残りの半身をもとめて、右往左往しながら人生を送るようになった
(…)
とにかく僕が言いたいのは、人間がひとりで生きていくのはなかなか大変だということだよ

引用元:海辺のカフカ/村上春樹

もともと人は二人でひとりだった。それが神様によって半分に割られたために、「もうひとりの自分」を探して生きていると。『ボクたちはみんな大人になれなかった』も、この「誰か」の存在を強く感じさせるストーリーでした。

お香の匂いがする便箋での文通、失敗できない命がけの待ち合わせ、Hotdog pressのアドバイスに振り回されるデート――ぎりぎり平成生まれの自分にはどれもピンと来ないものばかりですが、そんな不便で不器用な付き合いも悪くないよなと思います。

先の見えない将来に対する不安をやさしく和らげ、「大丈夫」と言ってくれる人をより大切にしたいと思えるこの小説

ニクい比喩表現にひとりで「うあー」と言いながら天を仰いだり、苦い記憶をくすぐる感情をおさえるために胸をさすったり、悶絶しながら読むこと間違いなしです。

タケダノリヒロ(@NoReHero

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