愛すべき人を愛する難しさ。小説『永い言い訳』(西川美和)感想・あらすじ

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【2017/02/16 更新】

本木雅弘さん主演で映画化もされている、西川美和さんのベストセラー小説『永い言い訳』

永い言い訳 (文春文庫)

妻が死んでも涙すら出なかった心ない男と、母を亡くした家族の再生物語。

大切な人を大切にすることの難しさ、尊さを考えさせられます。

号泣。

映画予告編&あらすじ

映画『永い言い訳』予告編

まずは映画の予告編。

ぼくは映画はまだ観てませんが、予告編を観る限り原作のキーポイントはそのまま抑えられてそうですね。

相変わらずもっくんイケメン。

小説を読んでいたときの主人公の脳内イメージは石田衣良さんだったんですが、文化人としてタレント活動もおこなうイケメン中年小説家役に本木さんもぴったりハマってますね。

小説『永い言い訳』あらすじ

あらすじはこんな感じ。

長年連れ添った妻・夏子を突然のバス事故で失った、人気作家の津村啓。悲しさを“演じる”ことしかできなかった津村は、同じ事故で母親を失った一家と出会い、はじめて夏子と向き合い始めるが…。突然家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか。人間の関係の幸福と不確かさを描いた感動の物語。

引用元:Amazon

事故や家族の死という重たいテーマを扱っていますが、作品自体はあたたかくほのぼのとしたトーンで進んでいきます。

映画の予告編でも「妻が死んだときにほかの女と寝ていた」と語られているとおり、主人公・津村はテレビでも活躍する人気小説家の皮をかぶったどうしようもない人間です。

その津村が、おなじく事故で母親を亡くした大宮家との交流によって、徐々に人間らしさを取り戻していくところ失ったものの大きさに気づいていく過程が見どころですね。

小説『永い言い訳』感想

西川美和の文体

この小説、驚くほどすらすら読めました。車や飛行機でも手放さず、暇さえあれば読んでました。

「文体」が自分の好みに合ってるのかな。卑屈過ぎないシニカルさ、肩の力を抜いて読めるリラックス感、そこに突如放り込まれる破壊力抜群のことば――

「女のひとが優しいのは、噓つきだからでしょ」と大友さんは言っていた。そんなふうにしかものごとをとらえられない大友さんは悲しいひとだが、私もその通りだと思った。優しさの成分は、九十パーセントが、噓である。

引用元:永い言い訳

もう愛してない。ひとかけらも。

引用元:永い言い訳

語り手もテンポよく切り替わります。

「ぼく(津村)」「妻(わたし=夏子)」「愛人(わたし=福永)」「真平(ぼく=大宮家の長男)」「周旋屋(ぼく=マネージャーの岸本)」など、おなじ出来事でも登場人物によってその受け止め方がまったく異なるので飽きさせません。その温度差が外野から見ていて楽しかったり。

津村の日記のような形で出てくる文章もおもしろい。

あとは待つだけ。あとは待つだけよ。おいしいカレー。うれしいカレー。いいだろ灯ちゃん。大人が居るっていいだろ。な? な? な?

引用元:永い言い訳

はじめての子守に悪戦苦闘しながら、なんとか大人としての自分の価値を示そうとする浅ましさは、もはやかわいい。

津村の変化(ネタバレ)

このあたりからネタバレ含むので、未読の方はご注意を。

見どころのひとつである主人公・津村の価値観の変化。元の人物像をよく知るマネージャーの岸本からはこう評されています。

およそ父性というものとは縁遠い人種だと思っていた。自己愛の度合いは激しいのに、健全な範囲での自信に欠けていて、厭世観が強く、自分よりも非力な存在のために時間を割くとか、面倒ごとを背負い込むなんて到底出来ない人種だと。

引用元:永い言い訳

愛人の福永からは「腐れ外道」とまで言われてます。それだけどうしようもない人だったんですね。

そんな津村も、変わります。

真平が受験に不合格になってしまったとき、本人は泣いていないのに代わりに号泣したのが津村でした。陽一からゆきに宛てた手紙。

真平は、とてもがっかりしていたけれど、しっかりしていました。真平の代わりに、幸夫くんが泣きました。バスから降りて、帰りの道の真ん中で、おいおい泣きました。幸夫くんは、なっちゃんが亡くなってから、一度も泣いてなかったんだそうです。

引用元:永い言い訳

ここでぼくも号泣。津村さん、変わったなあ。。

このあとの文章もよかったですね。真平の妹の灯が、逆上がりができるようになったことに対して。

悲しいことは起きるけど、そのとき世界のどこかでは、また嬉しいことも起きてるんだなと思ったよ。

引用元:永い言い訳

愛すべき人を愛すること(ネタバレ)

この作品が教えてくれたのは、「愛すべき人こそ、愛するのが難しい」ということ。

自分を大事に思ってくれる人を、簡単に手放しちゃいけない。みくびったり、おとしめたりしちゃいけない。そうしないと、ぼくみたいになる。ぼくみたいに、愛していいひとが、誰も居ない人生になる。簡単に、離れるわけないと思ってても、離れる時は、一瞬だ。そうでしょう?

引用元:永い言い訳

これが、「妻が死んでからはじめて愛し始めた」という津村が気づいたことです。

ぼくもこれ、すごくわかります。以前、こんな記事を書きました。

家族や恋人は、身近で、素を見せられるからこそ甘えてしまって、その関係性をないがしろにしてしまいがちなんですよね。

津村と夏子のように、夫婦として10年も連れ添っていると、その優しさも気遣いも、当たり前のようになってしまう。だから、愛すべき人こそ愛するのが難しいんだなあと。

旅行中、車の後部座席で涙ながらにこれを読み終え、隣の彼女にその気づきと一種の決意のようなものを伝えようとしたら、思いっきり口を開けて寝てました。

おい。

「『大切な人を大切にしなきゃ』ってわかってはいるけど、なかなかできないんだよね」という人におすすめな小説でした。

永い言い訳 (文春文庫)

タケダノリヒロ(@NoReHero

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アイキャッチ画像出典:Amazon

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