アフリカのルワンダでスタディツアーを運営しています、タケダノリヒロ(@NoReHero)です。
ツアーの参加者から働き方について相談されることも多いので、「もっとキャリアについて学びたい!」と思って読んだのがこちらの本、『科学的な適職』。
著者は鈴木祐さん、通称「パレオさん」で、ぼくの中では「メンタリストDaigoの動画でリサーチ協力をしている人」というイメージが強いですね(本の帯もDaigoさんだし)。
年に5,000本(!)の科学論文を読み続けて「日本一の文献オタク」とも呼ばれる著者が、科学的根拠に基づいて「キャリア選択」という正解のない悩みに答えを出す方法を具体的に解説した本。
この記事では、本書『科学的な適職』の要約をしています。「将来の働き方について考えるうえで役に立つポイント」を抽出してまとめてみたので、就職活動を控えた学生さんや転職を視野に入れている社会人の方、ぜひ参考にしてみてください。
もくじ
『科学的な適職』の要約
この本は、以下の5ステップに分けて書かれています。
ステップ1: 幻想から覚めるー 仕事選びにおける7つの大罪
ステップ2: 未来を広げるー 仕事の幸福度を決める7つの徳目
ステップ3: 悪を取り除くー 最悪の職場に共通する8つの悪
ステップ4: 歪みに気づくー バイアスを取り除くための4大技法
ステップ5: やりがいを再構築するー 仕事の満足度を高める7つの計画
このステップを踏んで、「適職(あなたの幸福が最大化される仕事)」を選びましょうね、というのがこの本の趣旨。
以下、ステップごとにどんなことが書かれているのかざっくり紹介します。
仕事選びにおける7つの大罪
まず、仕事探しにおいて、人は以下のような「思い込み」にハマりがちだそうです。
- 好きを仕事にする
- 給料の多さで選ぶ
- 業界や職種で選ぶ
- 仕事の楽さで選ぶ
- 性格テストで選ぶ
- 直感で選ぶ
- 適性に合った仕事を求める
一見「この基準で仕事を選ぶと良いですよ」と言われてもおかしくなさそうですが、本書ではこれらの7つは「仕事選びにおける大罪」とされています。
つまり「好きを仕事にする」や「給料の多い仕事につく」ことは、幸福度とはあまり関係がないということですね。
その理由が本書では科学的根拠とともに解説されています(この辺の研究結果もひとつひとつが面白い……!)
仕事の幸福度を決める7つの徳目
では仕事の幸福度を決めるのは何なのか、というと以下の7つ。
【仕事の幸福度を決める7つの徳目】
1. 自由(仕事内容や働き方に裁量権がある)
2. 達成(前に進んでいる感覚を得られる)
3. 焦点(モチベーションタイプに合っている)
4. 明確(なすべきこと、ビジョン、評価軸が明確)
5. 多様(作業内容にバリエーションがある)
6. 仲間(組織内に助けてくれる友人がいる)
7. 貢献(どれだけ世の中の役に立っているかわかる)
これら7つの項目が仕事の幸福度を上げてくれるものなんですね。
①裁量権はあるか
この7つのなかでもいの一番に述べられている、仕事の幸福度を高める基準が「裁量権があるかどうか」。
1380人の労働者を集めた台湾の研究では、「作業を実行するスケジュールを好きに設定できる」「タスクの内容を好きなように選ぶことができる」「収入や社内ルールに好きな意見を言える」という裁量権を設けました。
すると、仕事への満足度が上がり、離職率も減少、ストレスが大きな作業をしているあいだもネガティブな感情にハマりにくくなったそうです。
たしかになにか作業を依頼されたときも、あれこれ指図されるより自分なりに創意工夫できるほうが楽しかったりしますもんね。本書には「どこまで自分が自分のボスでいられるか?」ということばもありました。いいフレーズですね。裁量権大事。
②前に進んでいる感覚はあるか
つづいて「前に進んでいる感覚はあるか」。
コロンビア大学の実験です。被験者たちは2種類の「特定のカフェで使えるスタンプカード」を渡されました。
❶「コーヒーを 10 杯買えば無料で1杯をサービス」と書かれたスタンプカードを渡す
❷「コーヒーを 12 杯買えば無料で1杯をサービス」と書かれたスタンプカードを渡す。ただし、そのカードにはすでに2つのスタンプが押してある
結果は、❷のほうがスタンプの貯まるスピードが速かったそうです。これはあらかじめスタンプが押されていたことで「前進の錯覚」が働き、達成感が生まれてモチベーションにつながったということなんですね。
実際、最初からスタンプを押したカードを渡してくれるお店、ありますよね……!そういう作戦だったのか。
だから、たとえばお客さんに料理の感想を目の前で言ってもらえる料理人のように、仕事の成果とフィードバックを得られるかどうかを重視していきましょう。せっかく料理したのに何の反応ももらえなかったら作り甲斐がないですからね。
③モチベーションタイプに合っているか
本書いわく、ほとんどの性格診断テストには科学的な根拠があまりないらしいです。そんななかで適職探しに唯一役立つとされるのが「攻撃型」と「防御型」で分ける「制御焦点」という考え方。
◉攻撃型: 目標を達成して得られる「利益」に焦点を当てて働くタイプ。 競争に勝つのが好きで、金や名誉などの外的な報酬に強い影響をうける。つねに大きな夢を持っており、仕事を効率的に進める意思が強い。基本的にポジティブだが、そのぶんだけものごとを突きつめて考えず、準備不足のまま事を進めようとするのが難点。作業がうまくいかないと、すぐに気落ちする傾向もある。
◉防御型: 目標を「責任」の一種としてとらえ、競争に負けないために働くタイプ。 自分の義務を果たすのが最終的なゴールで、できるだけ安全な場所に身を置こうとする。 失敗を恐れる傾向が強いため、仕事ぶりは正確で注意深く、ゆっくりと着実にものごとを進めていく。最悪の事態を想定して動く傾向が強く、時間の余裕がない状況ではストレスが激増する。分析や問題解決力が高い。
あなたはどちらのタイプですか?本書にはこのタイプを診断するための質問が用意されていますが、上記の説明でも自分がどちらかはなんとなくわかると思います(ちなみにぼくは攻撃型でした。アフリカで起業してる人に防御型はいなさそう……)。
攻撃型に適した職業は、コンサルタント、アーティスト、テクノロジー系、ソーシャルメディア系、コピーライターなど。進歩や成長を実感しやすい仕事を探すと良いと言われています。
一方防御型に適した職業は、事務員、技術者、経理係、データアナリスト、弁護士など。安心感と安定感を実感しやすい仕事を探すと良いそうです。
④内容と報酬は明確か
4つ目は信賞必罰がはっきりしていることと、タスクが明確かどうか。
会社に明確なビジョンはあるか。そのビジョンを実現するために、どのようなシステム化を行っているか。
そして、人事評価はどのようになされているか。個人の貢献と失敗を目に見える形で判断できるしくみは整っているか。
仕事探しの際にはこういった点に注意すると良いようです。
⑤バラエティに富んでいるか
5つ目は仕事がバラエティに富んでいるかどうか。
「自分が持ついろんなスキルや能力を幅広く活かすことができる」「業務の内容がバラエティに富んでいる」というふたつの条件を満たす職場ほど、ぼくらの幸福度は高くなるんですね。
映画『トイストーリー』で有名なピクサー社には「ピクサーユニバーシティ」という教育施設が存在しています。ここでは全社員が複数のスキルを無料で学ぶことができるんだとか……!なんていい制度。ここで身につけた技術は、新たなプロジェクトに使うよう指導されます。
もともとはピクサーも社員の役割を固定したいたものの、退屈感が広まって優秀な人材の流出が起こってしまったそうです。そのため仕事に多様性をもたせて、スタッフの飽きを防ぐシステムをつくったんだとか。
たくさんの工程がある仕事のうち一部だけに携わるのではなく、川上から川下まで関与できることがモチベーションを高めるんですね。全体の流れが見渡せると責任感が生まれ、仕事の意味を見出しやすくなるので、できるだけ多くの工程に携われるような仕事を選ぶと良さそうです。
⑥社内に友人がいるか
6つ目は社内に友人がいるかどうか。
職場に3人以上の友達がいる人は人生の満足度が96%も上がり、同時に自分の給料への満足度は2倍になるそうです。驚異的な効果……!
さらに職場に最高の友人がいる場合は、仕事のモチベーションが7倍になり、作業のスピードも上がるんだとか。7倍って。界王拳だったらだいぶ身体への負担が激しいレベルです。
ということで、仕事探しをするうえでは、友人になれそうな職場を探すのが良いということになります。では、友人になりやすい人はどんな人かというと「自分に似た人」です。
人は自分と似た人を好きになりやすいので(「類似性効果」)、考え方、性格、外見、ファッション、文化的な背景などが似ている社員のいる会社を選ぶと良さそうですね。
⑦他人への貢献
最後の要素は「他人への貢献」を実感しやすいかどうか。
2007年、シカゴ大学が約5万人の男女を集め、 30年かけて「高い満足感を得やすい職業とはどのようなものか?」を調べました。結果、満足感が高かったのは下記の職業でした。
❶聖職者
❷理学療法士
❸消防員
❹教育関係者
❺画家・彫刻家
一見バラバラに見えますが、これらの職業の共通点は「他人を気づかい、他人に新たな知見を伝え、他人の人生を守る要素を持っている」 こと。つまり「その仕事がどれぐらい他人の生活に影響を与えられるか?」が重要ってことですね。
一方満足度が低い職業にランクインしたのは、倉庫ピッキング、レジ打ち、工場での単純作業など。これらは他人にどう貢献しているかが見えにくいため満足度が低いと考えられます。
「ヘルパーズ・ハイ」という言葉があって、他者への貢献で自分の気持ちまで満たされることを指した表現です。マラソンの「ランナーズ・ハイ」のようなものですね。
「好きなことを仕事に」はほんとに間違い?
仕事選びにおける「7つの大罪」と「7つの徳目」、よくわかりましたね。でも、にわかには信じがたいのが「好きなことを仕事にしても幸福度は上がらない」ということ。ほんとのほんとに、そうなんでしょうか。
自分なりに考えてみたんですが、結論から言うとこうなります。
・好きなことを仕事にしたときに幸福を感じるのは、好きなことが『名詞』ではなく『動詞』の場合
・その動詞(作業)に「7つの徳目」の要素が含まれるときに、幸福を感じる
名詞ではなく動詞で選べ
まず「名詞」と「動詞」の考え方については、下記の動画で田端信太郎さんが解説しています(元ネタは伝説のマーケター森岡毅さんの著書『苦しかったときの話をしようか』)
この動画で語られているのは、会社選びは「名詞」ではなく、「動詞」でおこなうべきということ。
「旅行が好きだからJTBに就職したい」と思う人もいるかもしれないけど、「旅行」(名詞)が好きなのと「旅行を売る」(動詞)のが好きなのは全然違うよね、と。
だから「自分が好きな動詞はなにか?」と考えるのが良いとおすすめされています。
例)話す、モノを売る、人とつながる、話をまとめる、モノをつくる、調べる、考える、書く、交渉する、企てる、物事を伝える、教える、計算する、分析する、世話をする、相談に乗る、絵を描く、創造する
好きな動詞には7つの徳目が含まれる
さらにここに『科学的な適職』の考え方を当てはめて深堀りしてみると、「好きな動詞を仕事にしてるから幸せ」なのではなく、「好きな動詞のなかに『7つの徳目』の要素が含まれるから幸せ」なのではないでしょうか。
たとえばぼくは書くことが好きなので、こうやってブログを書いていると幸せを感じられます(って書くとちょっと気持ち悪いね)。
でもそれは何をどうやって書くかすべて自分で決められるという「裁量権」があるから、そして1文字1文字目に見えて増えていく通り「前に進んでいる感覚」があるからかもしれません。
以前ライターの仕事をやっていたとき、「ここはこんな風に書いてください」と依頼されることがあって、嫌とまではいかないんですがやっぱりブログよりは楽しくなくて、「書くのしんどい……」と思ったことがあったんです。
だから仕事選びは「名詞」より「動詞」で選ぶべきですが、それだけではなくその動詞がどれだけ「7つの徳目」を満たせているかもチェックしたほうが良さそうですね。
まとめ
以上、鈴木祐さん著、メンタリストDaiGoさんもおすすめする『科学的な適職』の要約とレビューでした。
この本を読むと、「好きな仕事ができるか」とか「給料が高いか」とか、いかに間違った基準で仕事を選んでいたかがわかりますよね。
「仕事はお金を稼ぐための手段だから、幸福を感じられなくてもいい」と割り切っている人もいるかもしれませんが、仕事の時間は人生の大半を占めています。
短い命、どうせだったら幸せだと感じられる時間でできるだけ人生を埋め尽くしたいですよね。そのための入り口を教えてくれる良書でした。
ぜひ読んでみて、あなたの「適職」、見つけてみてください。