タケダノリヒロ( @NoReHero)【更新 2018/05/29】
落合陽一さんの新著『日本再興戦略』を読みました。
初動からものすごい勢いで売れているようです。
「現代の魔法使い」落合さんとベストセラー連発の編集者・箕輪さん、ふたりの天才が組んだ本、面白くないわけがありません。
本書の内容をざっくり要約しました。ただ、要約を読むだけでなく、きちんと原典を読むことをおすすめします。
福沢諭吉の『学問のすすめ』が大ベストセラーになって日本の近代がつくられていったように、落合さんの『日本再興戦略』が現代人にとっての羅針盤になる可能性だって十分あると思っています。
ぜひ読んでみてください。
もくじ
落合陽一とは?
念のため、「落合陽一」とは何者なのか(ご存知の方はつぎの章へ)。
Twitterのプロフィール欄を見てみると…
博士/筑波大准教授・学長補佐・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤長/ピクシーダストテクノロジーズCEO/JST CREST研究代表/大阪芸大客員教授/デジハリ客員教授 / 未踏スパクリ・総務省異能/VRC理事/未踏理事/電通イノラボ/博報堂/30歳/一児の父/メディア藝術家
とあります。
研究者、教育者、経営者、アーティスト、父親などなど、数々の肩書をもつまさに「百姓的な」働き方(百の生業をもつこと)を実践しているんですね。
昨年『情熱大陸』にも出演していましたが、「カレーをストローで吸う」ところがやたらと取り上げられていましたw
そんな独特な立ち振舞いが注目されがちな落合さんですが、テクノロジー・経済・教育・文化・歴史・アートなどあらゆる領域に精通しており、こんなに引き出しが豊富で切り返しが速い人は見たことがありません。
討論番組やニュース番組ではまわりの出演者たち(たぶんすごく頭の良い人たち)が幼稚に見えてしまうほど。
なのに年齢はまだ30歳。末恐ろしいです。そんな彼が描く「日本再興戦略」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
『日本再興戦略』要約
以下、各章ごとにポイントを抜粋しています。
①欧米とは何か
- 「欧米」というものは存在しない。欧州と米国はまったくの別物
- いまの日本のシステムは、欧州各国とアメリカの方式が混ざってできている(大学、法律、農地、生産など)
- いいとこ取りをしたつもりが、時代の変化によって悪いとこ取りになっているケースが目立っている
- 近代化以前に得たもの、以後に得たもの、いま適用しないといけないものを整理。「日本には何が向いていたのか」「これから何が向いているのか」を歴史を振り返りながら考える。
- 日本人に合わない概念の典型例「平等と公平」「近代的個人」「ワークライフバランス」
- 我々の変な価値観を規定しているのは、明治時代に生まれた翻訳言葉。西洋社会から輸入した突貫工事の翻訳語は時代に合わせて修正する必要がある。
- 政治のあり方でも、中央集権体制は日本には向いていない。平安時代以前や江戸時代のような地方分権が向いている。「ローカルの発見」「ムラ」が重要。
- 日本の原点、向き不向きを見極めたうえで、学ぶ価値のあることと学ぶ価値のないことを峻別していくこと。アートを考え、新しいものを見つめること。
- 日本は50~60年くらいに1回、考え方を大きく変えるのが今までの発展においては重要な国。本当は戦後50~60年の2000年ごろに転換するべきだった。
- ライブドア事件あたりでIT変革の流れは止まってしまった。原因は
- 大きな社会問題を起こすには、伝統的な日本企業が強すぎた
- 日本人の意識が昭和的均質のままだった
【1章「欧米とは何か」のポイント】
「欧米」という概念は幻想。「日本には何が向いていたのか」「これから何が向いているのか」を歴史を振り返りながら考えることが必要。日本に向いているのは「個人」より「コミュニティ」、「ワークライフバランス」より「ワークアズライフ」、「中央集権」より「地方分権」。
②日本とは何か
- 出雲政府と大和朝廷の争いが、日本の統治構造を形づくるうえで決定的な影響をもたらした。それ以降は、基本的に天皇という概念を中心にして統治されてきた。
- 大化の改新(645年)→宗教的な立脚点は天皇に、法制や法律は官僚的人材(中臣鎌足など)が決めていくという官僚主導の管理経済型の仕組み。
- 墾田永年私財法(743年)→それまでは三世一身の法で、土地は3世代までしか所有できなかったが、永遠に自分のものにできるようになった。
- 戦国時代には執行者の地位をめぐる争いがピークになり、2つの選択肢があった。
- 秀吉的世界。中央集権の自由経済的なオープンな世界。外の国を攻めるなど外交的成長戦略。
- 徳川的世界。非中央集権の地方自治。内需に頼る鎖国戦略。
- 結果的に徳川的世界の分割統治・地方自治スタイルが日本に向いていた。通貨も地域ごとにたくさん生まれて、文化が栄えた。
- 士農工商のカースト制度も300年程度日本の統治にはハマっていた
- 職業が得られることがわかっているのは、「自由がなく不幸」ではなく「安心かつ康寧」。職業の行き来がしやすい柔軟性のあるカーストを目指す。
- ビジネスパーソン、ホワイトカラーは「商」だが、基本的には生産にかかわらないため、一番序列が低いのは正しい(職人のほうが価値を生み出している)。
- とくに重要になるのが「百姓的な」生き方。百の生業を成すことを目指す。いろんな仕事をポートフォリオマネジメントしているので、コモディティになる余地がない。機械にも置き換えられない。
- クリエイションを中心に考えるカースト(士農工商)は日本と相性がいいが、なくなってしまった→マスメディアのトレンディードラマや拝金主義を通じた価値観の統一、人生のサンプルの流布が原因。
【2章「日本とは何か」のポイント】
歴史的に日本には地方自治スタイルが向いていた。士農工商のカースト制もハマっていたし、これからの日本には「柔軟性のあるカースト」が合っている。市場での希少価値が高いほど社会の中での重要性が高まるため、今後は「百姓的な」働き方が重要になる。
③テクノロジーは世界をどう変えるか
- AI、ロボット、自動運転、AR・VR、ブロックチェーンなどのテクノロジーが生活や仕事を変えていく
- キーワードは「どうやって我々は、本当の意味で、『近代』を脱していくか」=人が働くことによってもたらされるボトルネックを開放していくこと
- 近代的教育を施して、人を均していくことをやめなければならない。それがマイノリティの問題やワークライフバランスの問題に対する抜本的な解
- 近代というマス世界「1対N」の世界から、現代という多様世界「N対N」の世界になると、「技術をオープンソース化していくこと」と「それをパーソナライズしていくこと」が一番のキーワードになる。
- 自動翻訳、自動運転、5G(空間伝送、自動運転がオンラインに、リアルタイム中継、触覚)
- 「デジタルネイチャー」=ユビキタスの後、ミックスドリアリティ(現実空間と仮想空間が融合する「複合現実」)を超えて、人、Bot、物質、バーチャルの区別がつかなくなる世界のこと。計算機が偏在する世界において再解釈される「自然」に適合した世界の世界観を含むもの。
- 「リアル/バーチャル」「フィジカル/バーチャル」など二分法や二項対立で分けたがる世界を突破する
↑本書ではあまり語られていないデジタルネイチャーについては、次回作『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』(2018年6月15日発売。現在予約受付中)で読めるようです。
【3章「テクノロジーは世界をどう変えるか」のポイント】
近代的教育による画一的な人材育成をやめることが、マイノリティやワークライフバランスといった問題の抜本的な解決策となる。AI、ロボット、自動運転、AR・VR、ブロックチェーン、自動翻訳、5Gなどのテクノロジーが「最適化(パーソナライズ)」された社会を実現する。その技術の発展が物質と実質の融合を推し進め、世界は「デジタルネイチャー(計算機自然)」に向かう。
④日本再興のグランドデザイン
- 人口減少と少子高齢化が日本にとって大チャンス
- 自由化、省人化に対する「打ち壊し運動」が起きないこと
- 人口減少と少子高齢化へのソリューションを輸出する「逆タイムマシンビジネス」
- 教育投資(大人が増え、貴重な子どもへの投資に不平が出にくくなる)→機械化と省人化によって実現
- ブロックチェーンやトークンエコノミーは日本と相性がいい。ICOは地方自治体が中央集権から脱する切り札になり得る
- 「ブロックチェーン・オブ・エブリシング(BoE、あらゆる領域にブロックチェーンを広げていくこと)」が日本再興のために重要
- グーグル、Appleというカリフォルニア帝国に対抗する基盤になるのが仮想通貨
- 日本人はビットコインを世界でもっとも多く持っているから、守っていかないといけない
- ビットコインを守るために大事なこと
- 実世界で本当に使うのか
- 本当の非中央集権とは何か
- オールドエコノミー(ウォール街の投資銀行)との戦いに勝てるか
- デジタルネイチャーの世界では、あらゆるものがパーソナライズされる。勝負どころは、各ローカルの問題を解決するような若いベンチャー企業を日本中にばらまけるかどうか
【4章「日本再興のグランドデザイン」のポイント】
人口減少と少子高齢化は日本にとって大チャンス。機械化と省人化によって実現する。またブロックチェーンやトークンエコノミー、ICOによって、地方自治体が中央集権から脱することが可能。世界より20年先駆けてこれらの仕組みを日本の武器とし、世界中に輸出することができる。
⑤政治(国防・外交・民主主義・リーダー)
- 地方分権が進むと中央政府の求心力が弱まり、国防が弱くなりかねない
- 「機械化自衛軍」をもつ
- 外交の最重要テーマはインド
- 地理的に中国を挟み込める
- インド・アメリカと戦略を共有していたら、日本の外交は安泰
- これまでのリーダーの理想像は「リーダー1.0」。一人で何でもできて、マッチョで、強い人。中央集権的。
- これからは「リーダー2.0」。条件は3つ。
- 弱さ(共感性の高さ)
- 意思決定の象徴と実務権限の象徴は別でいい
- 後継者ではなく後発を育てる。リーダー1.0はカリスマ的なボーカル(プレスリー)。2.0はとがった個人が集まってできるバンド(ビートルズ)
【5章「政治(国防・外交・民主主義・リーダー)」のポイント】
地方分権が進むと国防が弱くなりかねないので、「機械化自衛軍」をもつべき。リーダーの理想像はこれまでのマッチョな「リーダー1.0」から共感性の高い「リーダー2.0」に移行する。
⑥教育
- 新しい時代に磨くべき能力は、ポートフォリオマネジメントと金融的投資能力
- ポートフォリオマネジメント→複数の職業をもったうえで、どの職業をコストセンター(コストがかさむ部門)とするか、どの職業をプロフィットセンター(利益を多く生む部門)とするか
- 金融的投資能力→「何に張るべきか」を予測する能力。
- 日本人が時代を読むのが苦手なのは、専門性に分かれたから。ポートフォリオマネジメントをしたり、いろんなところに行ったりしないので、タコつぼでしかものを見られない。それを避けるには、ひとつの専門性でトップに上り詰めて、トップ・オブ・トップの人たちと横の交流をもつこと。
- ポートフォリオマネジメントと金融的投資能力を育てるには
- 小学校に入るまで:五感をフルに使う。幼稚園や保育園に通わせるよりも、子どもが好きに能力を伸ばせるようカスタマイズした教育を。
- 小学校:好きなものや好きなアクティビティを見つけること
- 日本の問題点は高校。ポートフォリオと投資能力を教える適齢期。OJTによって少しでも社会のことを知るべき。高校を変えるには大学を変える。特にセンター試験をやめる。
- 大学生には研究をさせる=誰かがやったことは研究にはならないから、その分野のトップ・オブ・トップになれる。未知のテーマに挑む習慣もつく。この能力は社会人になってからも明らかに生きる。
【6章「教育」のポイント】
新しい時代に磨くべき能力は、「ポートフォリオマネジメント(複数の職業をもち、コストと利益のバランスを取る)」と「金融的投資能力(何に張るべきか)」。これらを育てるには幼少期からのカスタマイズされた教育や、センター試験の廃止、大学における研究とその支援が必要。
⑦会社・仕事・コミュニティ
- 「ワークアズライフ」の時代において重要なのは、「ストレスフルな仕事」と「ストレスフルではない仕事」をどうバランスするか
- 「仕事のポートフォリオマネジメント」も働き方のキーワードに。
- どうやって哺乳類型の小さくてフットワークの軽い企業をたくさん創り出して、恐竜型のでかい企業とつなげて、これまでと違うイノベーションを起こせるか
- 大学やベンチャーへの投資が必要
- 個人のキャリアプランとしても、ベンチャーに入ることが賢い選択
- 株式やストックオプションを保有していれば、上場や買収でエグジットしたときに、年収レンジが爆上がりする可能性が高い。
- 専門性の高いベンチャーでキャリアを磨けば、市場価値が上昇しやすくなる
- 日本経済・再興戦略の柱
- ホワイトカラーおじさんをベンチャーで有効活用
- 男女のフェアな扱い
- 年功序列との決別
【7章「会社・仕事・コミュニティ」のポイント】
個人の働き方としては、「ワークアズライフ」の考え方のもと「ストレスフルな仕事」と「ストレスフルではない仕事」のバランスを取ること。社会全体としては、ホワイトカラーおじさんのベンチャーでの有効活用、男女のフェアな扱い、年功序列との決別が日本経済再興の柱となる。
『日本再興戦略』感想
以上が本書のまとめで、ここからは個人的な感想。
「日本再興戦略」というでかいスケールのタイトルですが、最終的には「じゃあ個人個人はどうすればいいか?」という話まで落とし込まれているのが読者としてはうれしいところ。
日本の目指すべき方向性がわかったところで、自分自身が何をすべきかが分からなければ意識も行動も変えようがないですもんね。
「『自分探し』より『自分ができること』から始める」という文章が印象的でした。
人間の学習スピードより、技術革新の速度のほうが速い時代です。だから「将来こうなるから、こうだ」と予測して動くことにはあまり意味がありません。
「自分らしいものを考え込んで見つけて、それを軸に、自分らしくやって生きていこう」という考え方は近代(前時代)的で、デジタルヒューマンは「今やるべきことをやらないとだめ」なんです。
そして、やったことによって、自分らしさが逆に規定されていくんですね。
だからこそ、落合さんは学生たちにいつもこう言っているのでしょう。
ポジションを取って、手を動かすことで、人生の時間に対するコミットが異常に高くなる。だからまずはやってみよう、と。
多動力は大切だけど、まずは何かのジャンルで突き抜けること。そうすればトップ・オブ・トップとの横のつながりができる。
あなたはどんなポジションを取り、どんな価値を生み出しますか?
落合陽一の本
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