タケダノリヒロ( @NoReHero)
アフリカ・ルワンダで、青年海外協力隊として活動しています。
協力隊の任期は2年間。私がルワンダに来たのは16年の1月なので、もうすぐ任期が終わろうとしています。
家を引き払って首都のキガリに上がるのが1週間後、日本に帰るのが2週間後です。
そんな帰国間際に、まさかの新プロジェクトを始めることになりました。その内容とは「手作り石けんビジネス」の支援。
石けんを作っているのは、ルワンダ国内で家族と離れて私と同じ農村部・ムシャセクターに住むパスカルさんというおじさん。
いったいこれから何をするのか。パスカルさんとは何者なのか。ご紹介します。
帰国直前ですが、面白くなってきました。
突然の訪問者
12月26日は「Boxing day(※)」で祝日。
※ボクシングデー…クリスマスの翌日で、元々は、教会が貧しい人たちのために寄付を募ったクリスマスプレゼントの箱(box)を開ける日。
参考:Wikipedia
朝のんびり出かける準備をしていました。
すると何かを伝えに来た我が家の警備員。「どうしたの?」と聞くと、「ウムサーザ(おじさんまたはおじいさん)が来てるよ」と。
誰だろうと思って出てみると、門の外に知らないおじさんが。
ペラペラとおじさんが何やらルワンダ語で話してくれるものの、いまいちよく分からず。
でも英語も通じないので、一つずつ分かる単語を拾って確認していくと、どうやら「石けんを作って売っているけど、資金が足りなくて困っている。資金があれば新しいプロジェクトを始めたい」という話のよう。
「工場か何かがあるの?」と聞くと、「マタファーリ」というここから歩いて30分くらいの地域に家があって、そこで石けんを作っているとのこと。
私は協力隊では「コミュニティ開発」という職種。特に求められていたのは、村の衛生状況の改善でした。
「(このおじさんを手伝えば、協力隊としてやりたかった『ビジネス』と『衛生』の両方ができるかも……)」と何やら面白そうなニオイを感じ、おじさんの石けん工房まで連れて行ってもらうことにしました。
おじさんとの会話
すぐに部屋着から着替えて、自転車を取って、おじさんとマタファーリへ出発。
しかし祝日だからか普段はたくさんいる自転車タクシー(※)が見当たらず、私は自転車を押して、おじさんと歩いて行くことに。
※自転車タクシー…ルワンダではバイクタクシー(モト)と並んで庶民の足となっている乗り物。2人乗りの要領で目的地まで連れて行ってくれる。値段はだいたい10分乗って200ルワンダ・フラン(約25円)など安い。
でも、そのおかげでおじさんとゆっくり話すことができました。
「私はノリって言います」
「ノリ?」
「フルネームだとタケダノリヒロだけど、長いのでみんなからはノリと呼ばれてるんです」
「私はパスカル。以前は教師をしてました。タンザニアで、ルワンダとブルンジの難民の子どもたちを5年間教えてたんです」
「タンザニアで難民の先生!すごいですね。ルワンダにはいつ戻ってきたんですか?」
「2008年だから、もうすぐ10年になりますね」
「それから石けんづくりを?」
「はい。自転車、私が運びますよ」
そう言って私の自転車を代わりに引いてくれるパスカルさん。
しかし足元は未舗装の急な下り坂なので、すべるすべる。結局交代しながら運ぶことに。
「私はムシャセクター事務所で衛生環境改善の仕事をしています。学校に行って衛生クラブを作ったり。JICAという団体で、いまルワンダ全国に30人くらいボランティアがいます」
「そんなにたくさん!西部にもいますか?」
「はい、コーヒーの支援をしてる人がひとり」
「そうですか!私は西部にあるルシジの出身なんです。妻と子どもが4人いるんですが、家族はまだルシジにいます。はやく一緒に住めるようになればいいんですが。ノリも家族が寂しがってるんじゃないですか?」
「私の両親もパスカルさんと同じ学校の先生だったんですよ。寂しがってるかもしれませんが、もうすぐ会えますから。2年間の任期を終えて、来週にはムシャを離れるんです」
「ええ!帰っちゃうんですか」
「でももしパスカルさんがWhats appや電話を使えれば連絡は取れますし、来年の夏頃にはルワンダに戻ってくるつもりです」
「それはよかった。いまはSIMカードだけ持っていて、電話はないんです。でも電話は近所の人から借りられるし、いずれ電話も買います。しかし、こんなに歩かせてしまって申し訳ない。疲れてないですか?」
「大丈夫ですよ、歩くのは好きですから。そう言えば私のことは誰から?」
「教会のミサであなたのことを聞きました。どこの国の人ですか?」
「日本です」
「おお!テクノロジーの国ですね」
「はい。トヨタもスズキもヤマハもみんな日本の会社ですから」
そんな話をしながら、ようやくマタファーリに着きました。
30分で着くと言われたのに、結局小一時間歩きました。
ルワンダ人の言う「5分」は「30分」、「30分」は「1時間」くらいにサバ読まれてることが多いのですが、もうそんなルワンダタイムにも動じませんよ。ルワンダ歴2年ですから。想定の範囲内。
石けん工房見学&お宅訪問
工房と家は別らしく、まずは石けん工房を見せてくれました。
これが石けんをつくる装置。
写真手前の木枠を組み立ててビニールを敷き、液体を流し込んで6〜12時間ほど固めます。
これがカッター。
こうやって細かく切って1個50ルワンダ・フラン(約6円)、大きな塊は300ルワンダ・フラン(約40円)で、市場やブティック(生活用品やお菓子など何でも売ってるお店)で販売しているそう。
もっとちゃんとした機械を買うには「数ミリオンかかる」と渋い顔をして言っていました。100万ルワンダ・フランだとしても12万円ほどかかるので、とても庶民に手の出せる価格ではありません。
これが石けんづくりのレシピ。
石けんづくりに必要なのは、苛性ソーダ(caustic acid)、水、油、それから湿度計(Hydrometer)とのこと。
基本的にはこれだけでつくれるものの、もっと良い物をつくるには香料なども必要なんだとか。
その後パスカルさんのお宅へ。
土壁でできたパスカルさん宅。
写ってるのは外国人が珍しくて覗きに来た近所の少年。
中に入ると家具などは何もない代わりに大量の日干しレンガが。
このレンガのことをルワンダ語で「マタファーリ(amatafari)」と言うので、もしかしたらその生産が盛んだからここの地名も「マタファーリ」になったのかな。
塗装されずむき出しになっている赤土の地面には、小さな鍋がひとつと、イス代わりに使っていると思われる藁を敷いたレンガ、そしてゴルフボールくらい小さなジャガイモがコロコロと10個ほど転がってるだけ。
「ここに座って」と言いながら、レンガの上の藁に私のお尻が汚れないよう自分の上着を被せようとするパスカルさん。
「大丈夫大丈夫!このままでいいですよ」と慌ててお断りしました。
ここにひとりで座って、このジャガイモ食べてるのか……
「ライフイズハードヒア(ここでの生活は厳しいですよ)」
簡単な英語でパスカルさんがそう教えてくれました。
私も一人暮らしですが、ネットも電話もあるのでいつでも好きなときに好きな人と話したり、YouTubeを観たり、ブログを書いたりできます。
でも、パスカルさんは電話すら持っていません。
「ノリも家族が寂しがってるんじゃないですか?」
歩きながらパスカルさんが問いかけてきた、さっきの質問が思い出されました。ここにひとりで暮らしてるのか……
支援しよう
材料を買うとしたらいくらかかるのか、具体的に聞いてみました。必要なのは35700ルワンダ・フラン(約4000円)。
これはムシャセクターの住民の平均月収と同じくらいの金額にあたります。
(ルワンダ情報専門サイト『ルワンダノオト』参照↓)
月収4千円、一日一食…130軒調査して分かったアフリカ・ルワンダ農村部の暮らし(2016~17年)
内訳は
- 湿度計 20000ルワンダ・フラン
- 苛性ソーダ2kg 5000ルワンダ・フラン
- 油4kg 5200ルワンダ・フラン
- 色料 3000ルワンダ・フラン
- 買い出しに行く首都キガリまでの交通費 2500ルワンダ・フラン
この人なら、お金出していいかな。
「分かりました。支援させてください。最初の材料を買えれば、商品を作って自分で稼げるようになりますよね?」
「うん。ありがとう。明日早速材料を買ってきて、石けんをつくります。作ったら、近所の人に電話を借りてノリにレポートしますね」
「金曜か土曜に様子を見に来てもいいですか?作るところや製品を見てみたいです」
「もちろん。じゃあ金曜日の朝に」
こうして、単身赴任パパ・パスカルさんの石けんづくりを支援することになりました。
支援と言っても、あとはパスカルさんの頑張りを見守るくらいしかやることがありませんが。
一旦日本に帰りますが、またルワンダに戻ってくるつもりなので、継続的にサポートしていくつもりです。
支援の決め手
私は現地の方々に対して、金銭的な援助はなるべくしないようにしています。
良かれと思って助けても、逆に自立を阻害する可能性や、特定の人を支援することで近隣住民との不和につながる恐れがあるからです。
これまでにも、「お金をくれ」と言われてイヤな思いをしたことが幾度となくあります。
でも、パスカルさんの場合は、たとえ結果的に失敗したとしても、裏切られたとしても、応援してみたいという気持ちになりました。
お金を要求してくるルワンダ人は、多くが不躾で「外国人はお金持ってるんだから、分け与えて当然でしょ」といった態度だからものすごく悲しくなります。
でもパスカルさんは「お金」という単語を極力使わず「『プロジェクト』に使う『キャピタル(資金)』」という表現をしてくれて、説明にも丁寧さと真摯さを感じました。
ほかにも教師をしていたというバックグラウンドや家族の話、自転車を引いてくれたり、長距離を歩いて疲れてないか確かめてくれたり、レンガのイスに上着をかけてくれたりーー
そういった細かい気遣いと、わざわざ私の家まで訪ねて来たり「明日作ってレポートする」と自ら言ってくれたりする行動力と自主性、会話していて心地よい相性の良さが感じられました。
だから、初対面だけど「この人の助けになりたい」という気持ちになったんだと思います。
このところこのブログに「(ホームズという主役のストーリーを伝える)ワトソン的な生き方」や、「親友をつくる難しさ」といった「パートナーが欲しい」という趣旨の記事を書いていたんですが、パスカルさんが「その人」になるといいなあと思ってます。
ムシャを出るまであと一週間。まずは3日後の金曜日に、進捗を確かめてきます。
どうなるかな。
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