執筆:2016年4月7日 更新:2021年9月21日
ルワンダは本日(4月7日)から虐殺追悼週間。ぼくの住むルワマガナ郡ムシャセクターでも追悼集会が開かれました。
そこでルワンダ人の友人に聞いた、ジェノサイドに対する「過去は過去だ」という意識。彼は「映画『ホテル・ルワンダ』の内容は嘘だ」とも言っていました。
一体どういうことなんでしょうか。
ルワンダ人を理解するためには、ジェノサイドは避けては通れない問題です。
YouTubeでも解説しました↓
「『ホテル・ルワンダ』主人公モデル、ヒーローはテロリスト?有罪判決の背景【解説】」(2021年9月21日)
追悼式典
ぼくがボランティアとして所属しているJICAからは「安全のため追悼式典への参加は自粛してください」という通達が来ていたので、参加はしないつもりでした。
ただ、集会が開かれるのはぼくの家がある敷地の中。目の前でやってるのにまったく顔を出さないのも住民としてどうかと思ったので、遠目からちらっとだけ様子を見に行きました。
住民に演説する上司
普段とは異なり、やはり神妙な空気が漂っていました。
広場の入口には看板が(撮影は集会終了後)。「kwibuka」は「to remember(思い出す)」という意味。
その下には「Kwibuka Jenoside Yakorewe Abatutsi」=「ツチ族に対して行われたジェノサイドを思い出す」、「Turwanya Ingengabitekerezo Ya Genoside」=「我々はジェノサイドのイデオロギーと闘う」と書いてあります。
普段の会話では「ツチ族」「フツ族」という単語すらタブー視されている状況ですが、今日は朝からラジオでも虐殺の話をしていました。
朝からラジオで虐殺の話してる。今日からルワンダはジェノサイドメモリアルウィークです。 #ルワンダ
— タケダノリヒロ@ルワンダノオト (@NoReHero) April 7, 2016
やはりこの追悼週間は特別なものなんだろうと思い、集会終了後に残っていた同い年のルワンダ人に話を聞いてみると予想外の反応が返ってきました。
「過去は過去」
「やっぱりこの追悼週間はルワンダ人にとっては特別なものなんでしょ?」
「うーん、そうでもないよ。…うまく言えないけど、『ノーマル』だよ」
「それは君が若いからじゃないの?(虐殺が発生したのは1994年。当時の記憶がない20代以下の若者は客観的に虐殺を捉えている印象)」
「いや、たぶんみんなそうだよ。過去は過去。事実は変えられないからね」
仲良くしていた近所の人同士が襲ったり襲われたりしていた状況からまだ20数年しか経っていないのに、そんなにフラットに捉えられるものなんでしょうか。
いま普通に近所づきあいをしている人たちも、当時は敵対したり、人を殺したりしていたという可能性だって大いにあります。
この話をしてくれた彼は、当時家族とブルンジに亡命していたそうですが、ルワンダに残っていた親族の中には殺されてしまった人もいるそうです。
仲良くなったつもりでもどこか壁を感じさせるルワンダ人。彼らのことを理解するにはやはりこういった歴史的な背景も知る必要があると強く感じます。
ホテル・ルワンダは嘘?
「映画の『ホテル・ルワンダ』って観たことある?あれは世界的に有名だよね。ぼくがルワンダのことを知ったのもあれがきっかけだよ」
「もちろん観たことあるよ。ぼくらはあの映画の男(モデルになったポール・ルセサバギナ)を許せないんだ」
「え?なんで?」
「映画では事態が収束するまで多くの人たちをホテルに匿って助けたことになってるけど、実際は彼らを置いて逃げたせいで、彼らは殺されてしまったんだ。
政府もあの映画で描かれていることは嘘だって言ってるし。現に彼は戻って来たら捕まっちゃうから今でもベルギーに亡命してるんだ」
とのこと。
調べてみると、ポール・ルセサバギナは大統領であるポール・カガメと対立しているようです(Wikipedia英語版。日本語版にはただの英雄としての情報しかありません)。
Rusesabagina and Rwandan president and former head of the Rwandan Patriotic Front (RPF) Paul Kagame have become public enemies of each other. In his autobiography, Rusesabagina alleges, “Rwanda is today a nation governed by and for the benefit of a small group of elite Tutsis…Those few Hutus who have been elevated to high-ranking posts are usually empty suits without any real authority of their own. They are known locally as Hutus de service or Hutus for hire.” He has also criticized Kagame’s election to president.
ルセサバギナとルワンダ大統領でありRPFの元リーダーであるポール・カガメは公敵となっている。ルセサバギナは彼の自伝でこのように強く主張している。「今日のルワンダはツチ族のわずかなエリート集団によって、そのエリート集団のために、統治されている国家である。少数のフツ族も高ランクのポストに格上げされたが、そのポストは実質的な権威を伴っていない。ここではフツ族は奉仕する側、雇われ側として認識されている」 (訳:タケダ)
立場によって見方はまったく異なりますし、事実として語られていることが事実とも限らないので、何が真実かは分かりません。
ただ、現在のルワンダにおけるカガメ大統領の人気と実力は絶大です。至る所に写真が飾られており、国民の支持の大きさが伺えます。
独裁者だという批判もありますが、ジェノサイド以降ルワンダの平和が保たれているのは彼の政治力によるところが大きいようです。
そんな大統領と敵対しているのであれば、『ホテル・ルワンダ』の内容が嘘だと国民に信じられていることも、彼がそのせいでルワンダに戻って来れないということも頷けます。もしかしたらルセサバギナが真実を言っていて、大統領が自分の権威を守るために情報操作しているだけかも?
ルワンダとの縁
ぼくが映画『ホテル・ルワンダ』を観たのは、2013年。当時はまだ青年海外協力隊のことなんてまったく頭にありませんでした。
観てみようと思ったのは「これ観たら、『世界を変えたい』って思うで」という映画好きの友人の一言がきっかけでした。あのとき、確かに世界を変えたいと思いました。
あれから3年。特にルワンダ派遣を希望したわけでもなかったので、まさかこうしてルワンダで虐殺追悼式典を目の当たりにするとは思ってもみませんでした。
でもルワンダに来れてよかったと思っていますし、3年前よりも強く世界を変えたいと思っています。
もっともっとこの国のことを知っていきたい。そう思った1日でした。
タケダノリヒロ(@NoReHero)
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