アフリカのルワンダでスタディツアーや情報発信をしています、タケダノリヒロ(@NoReHero)です。
SNSで話題になっていた本、三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読みました。
「疲れてスマホばかり見てしまうあなたへ」。この本の帯に書かれているメッセージですが、「自分のことだ……!」と思わずドキッとしてしまいました。そしてタイトルは「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」。
わたしたちは、なぜ本を読めないのにスマホなら見ることができるのでしょうか?
もくじ
「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」の理由
本書の結論をかなりざっくりまとめると、スマホからの情報には「ノイズ」がないから、知りたい情報以外出てこないから、というのが答えになります。
この本では、その結論にいたる過程を、読書史と労働史を振り返りながら紐解いています。そこから読書をしなくなる恐ろしさを感じたので、当記事では印象的だった部分や考えたことをまとめました。
知識と情報の違い
本は読めないのにスマホなら見ることができるのは「ノイズ」がないから、ということでしたがいったいどういうことなのでしょうか。これを知るカギは「知識」と「情報」の違いです。
読書からはおもに「知識」を得ることができ、「ノイズ」(他者や歴史や社会の文脈)が含まれます。一方ネットからはおもに「情報」を得ることができ、「情報」は「知識」から「ノイズ」を取り除いたものです。
ネットの情報にノイズがないのは、それが知りたかったことそのものだから。たとえばなにか調べ物をするとき、ネットで検索すれば答えまで一直線にたどり着くことができますが、本で調べようと思ったらそれ以外の余計なもの(ノイズ)まで読まないと答えにたどり着くことはできません。
だから合理的であることを良しとする現代社会では、読書はノイズを提示する「邪魔者」なのです。
ノイズがあるから面白い
でも、目的とする情報まで一気にたどり着いてその過程を無視してしまう行為って、たしかに効率的ですがなんだか味気ないですよね。
このブログだってそうです。本書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』には読書史のこと、労働史のこと、著者の考えなどが奥行きをもって書かれているのに、この記事ではその中からわたしが気になったところだけを抽出しています。
だから「働いていると本が読めなくなる理由は、『ノイズ』があるから」というみなさんが知りたかったであろう答えには一直線にたどり着くことができますが、それ以外のエッセンスが削ぎ落とされてしまっているのです。我ながらなんとも皮肉なことだなと思いながら書いています(ぜひ原著を読んでください……)。
そこで思い出したのが、漫画『HUNTER×HUNTER』の名言。主人公ゴンの父親ジンは、息子にこう説きます。
道草を楽しめ 大いにな
ほしいのものより大切なものが
きっとそっちに ころがってる
引用元:HUNTER × HUNTER 32
この「道草」こそ、読書で提示される「ノイズ」のようなもの。大切なものは目的地への最短ルートではなく道草した先にあるのです。
好きなものとの出会いが減る
読書だけでなく、音楽もいっしょ。いまはサブスク系の音楽アプリでもYouTubeでも、無料で好きなだけ音楽を聞くことができます。ある曲を聴くと、それと似たテイストの曲を自動的に紹介してもらえるレコメンド機能なんて便利な機能も。
だから一見良さそうに思えますが、個人的には「もうちょっとテイストをずらしておすすめしてくれないかな……」と思うことも多々あります。いくら好きなジャンルの曲でも、似たようなのばかり聴いていたら飽きてきてしまうからです。
一方で10年ほど前まではTSUTAYAに行ってCDを借りて、それをPCに落としてiPhoneやiPodに入れるという、いま考えるとなんともアナログな方法で音楽を聴いていました。でもそれが世界を広げてくれたんです。TSUTAYAには店員さんがおすすめしてる手書きPOPがあったので、それを見てまったく聴いたことのないジャンルやアーティストのCDでも冒険してみようという気になれました。
本書でも若者がフリッパーズ・ギターを知っていたことでおじさんと話が盛り上がり採用につながった話が出ていましたが、まさにぼくも世代ではないのにフリッパーズ・ギターを聴いていて、その出会いをつくってくれたのはTSUTAYAのPOPでした。
読書とは、教養とは、自分から遠く離れたところにあるものや文脈に触れること、と著者は書いていました。もし聴きたい音楽が決まっているなら、それ以外のCDをおすすめするPOPは「ノイズ」でしかないですが、そのノイズのおかげで「通ってこなかった」音楽にも出会うことができるのです。
合理的に最短ルートで情報を取りに行くことが必要な場面もありますが、そればかりを求めてしまっては新たに好きになれるものとの出会いを逃してしまいます。なぜなら、わたしたちは何を知りたいのかを自分でも分かっていないから。だから、読書でも音楽でも、もっといえば人生のあらゆる場面において、適度なノイズは必要なのです。
レコメンド機能の奴隷とならず、能動的に「好き」を見つけていきたいものですね。
わたしの仕事こそノイズの極み
そう考えると、わたしがアフリカのルワンダで運営しているスタディツアーなんてノイズの極みだなと思いました。まさに自分から遠く離れたところにあるものや文脈に触れる体験です。
「アフリカの奇跡」と称されるほどの発展を遂げているルワンダの街なかを歩いたり、いまだに炭で調理したり水汲みをしたりしている農村部のルワンダ人家庭にホームステイしたり、現地で活躍する起業家や国際協力関係者の話を聞いたり。
そうやって日本では決して出会えない人やものごとに触れることで、「自分はこんなことにも興味があったのか!」と自己理解を深めたり、「こんな世界があるなんて知らなかった!」と視野を広げたりすることができるのです。
わたしたちは何を知りたいのかを自分では分かっていないもの。だからこそ自分から遠く離れたところにあるものや文脈に触れることで、教養を深め、新たな自分に出会える可能性を広げていく必要があると思います。
全身全霊でなく半身ではたらく
しかし、現代社会を生きるほとんどの日本人には、ノイズを受け入れるほどの余裕がありません。だからなにも考えずに楽しめるスマホゲームやYouTube、TikTokには熱中できるのに、本を読むことはできないのです。そこで著者は「全身全霊」でなく、「半身」で働くことを提唱しています。
新しい文脈という名のノイズを受け入れられないとき。
そういうときは、休もう。
と、私は心底思う。
疲れたときは、休もう。そして体と心がしっくりくるまで、回復させよう。本なんか読まなくてもいい。趣味なんか離れていいのだ。しんどいときに無理に交友関係を広げなくていい、疲れているときに無理に新しいものを食べなくていいのと同じだ。
そして――回復して、新しい文脈を身体に取り入れたくなったとき、また、本を読めばいいのだ。
そんな余裕を持てるような、「半身で働く」ことが当たり前の社会に、なってほしい。
これには心から同意です。本を読む余裕すらもてない生き方、働き方は、きっとどこかに無理がある。もしいまそんな状態なんだったら、できるかぎり休んだほうがいい。読書にかぎらず、もともと好きだった何かができなくなっていたらそれは疲れのサイン。根本的に生活や環境を見直すべきときなのかもしれません。
もしそんな状態がずっと続いてしまったら、自ら「遠く離れたところにあるものや文脈に触れるきっかけ」を手放しつづけることになるのです。そうなると、本来好きになれるはずだった物語や、背中を押してくれるはずだったことば、世界を広げてくれるはずだった考え方との出会いなども失ってしまうかもしれません。平たく言うと、成長のチャンスを逃すのです。それはとても恐ろしいことですよね。
本を読める余裕、ノイズにふれることを楽しめる気力を持ち続けられる毎日を送りたいものです。
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