【更新 2018/01/09】 タケダノリヒロ( @NoReHero)
Twitterで『マネーロンダリング』という小説についての話題を見かけました。ドイツ在住フリーランスwasabiさんと、おなじくドイツ在住翻訳者のChikaさんの会話。
「このおふたりが『面白い』と言うんなら、まちがいなく面白いだろう」と思い、即購入。
発表されたのは2002年とすこし古いですが、読み始めたら途中で外出したりバスを降りたりするのがいやになるくらいハマりました。
金融をテーマに、恋愛や闇社会などの人間ドラマを交えたサスペンスです。まったく読んだことのないジャンルだったんですが、おかげで世界が広がりました。やっぱり信頼する人のおすすめには素直に従ってみるものですね。
この記事では『マネーロンダリング』のあらすじや登場人物、感想(面白かったポイント)をまとめています。ネタバレなしです。
もくじ
『マネーロンダリング』あらすじ
- 香港と日本を舞台に繰り広げられる、「国際金融情報小説」
- 主人公は工藤秋生、34歳
- 工藤は銀行やヘッジファンド運用会社を経て、香港で日本人を相手にもぐりのファイナンシャル・アドバイザーをやっている
- そこに若林麗子と名乗る絶世の美女が現れる
- 工藤は麗子にアドバイスをする
- 数ヶ月後、黒木というヤクザの若頭がやってくる
- 麗子は黒木が関係する50億円を日本から送金し、行方をくらましたという
- 工藤は日本と香港を行き来して、事件の真相を追う
- 麗子は何者なのか?50億円はどこに消えたのか?
設定だけ見ると、「絶世の美女」とか「ヤクザ」とかなんだか安っぽく感じてしまいますが、読んでるうちに物語にぐいぐい引き込まれます。
著者・橘玲(たちばなあきら)さんについて
著者の橘玲(たちばなあきら)さんは、この『マネーロンダリング』で2002年にデビュー。同年に発売した『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』はベストセラーに。
ほかにも『タックスヘイブン』や『永遠の旅行者』などお金をテーマにした小説を発表しているかたわら、『マネーロンダリング入門』など金融に関する専門書も出版されています。
フィクションもノンフィクションも手がけていて、小説のなかでは難しい金融の話がものすごく詳しく描写されているため、それを知ったら誰もが「橘玲って、いったい何者?」と気になるはず。
ぱっと調べただけでは詳しい経歴は出てこなかったんですが、いちばんわかりやすいWikipediaにも「早稲田大学第一文学部卒業。元・宝島社の編集者。日本経済新聞で連載を持っていた。海外投資を楽しむ会創設メンバーの一人」などと書かれているのみ。
「なんでこんなに金融の知識があるんだろう?」と謎は深まるばかりですが、著書や本人が発信してる情報を追っていけばどこかに書いてあるのかな。もう少し詳しいプロフィールがわかったら追記します。
『マネーロンダリング』登場人物
小説『マネーロンダリング』の魅力のひとつは個性豊かな登場人物。下記は各キャラクターの説明と個人的な印象。
- 工藤秋生…主人公。34歳。もぐりのファイナンシャル・アドバイザー。切れ者のヤクザ・黒木や倉田老人にも一目置かれるほど頭の回転が早い。クールな塩顔イケメンのイメージで、ぼくの脳内では大沢たかおが演じてます。
- 若林麗子…謎多き絶世の美女。工藤との関係が深まっていく描写はなかなかにドキドキします。彼女の生い立ちの謎が一連の事件のカギ。
- 黒木誠一郎…インテリヤクザ。本書の登場人物でいちばん好きです。とてつもないほどの冷酷さと人情味を持ち合わせた人物。
- チャン…工藤の良きパートナーで、香港の裏社会にも通じている。メイのことを実の娘のように思っており、工藤にもなにかと世話を焼いてくれるが、お金に左右されやすい面も。
- メイ・リン…チャンの事務所で働いているかわいい女の子。カナダで2年間働いていたため、香港とカナダのふたつの国籍をもっている。工藤とは友だち以上恋人未満のような関係。
- マコト…20代後半の大手電機メーカー技術者。資産運用セミナーに参加するため香港を訪れ、工藤と出会う。工藤の金融知識に感銘を受けブログを開設。そのブログを通じて、日本から工藤のもとへ客が流れてくるようになる。
- ゴロー…黒木の手下であるヤクザ。坊主頭の巨体で義眼という不気味な出で立ちに似合わず、純情な一面をもつ。
- 恩田…50代なかばでの太った男で見た目はパッとしないが、やり手の調査員。工藤の依頼を受けて、麗子の事件操作にかかわる。
- 倉田老人…大金持ちの老人で各方面に強いコネクションをもつ。工藤をかわいがっている。
『マネーロンダリング』おすすめポイント・感想
本書のタケダおすすめポイントは3つ。「サスペンスのドキドキ感」×「マネーリテラシー」×「キャラクターの魅力」。
サスペンスのドキドキ感
まずはサスペンスのドキドキ感。ほんとにお話がよくできていて、ぐいぐい引き込まれます。絶世の美女・麗子が現れたと思ったら、50億円とともに忽然と姿を消し、代わりにヤクザの黒木が登場。
そこから香港と日本を行ったり来たりしながら、麗子の素性を探っていくと次々と明らかになる過去。
ぼくのように平々凡々と生きてきた人間にとっては、ビッグマネーが動く金融の世界も、血で血を洗うヤクザの世界も未知の世界でとても刺激的でした。
驚くべき調査能力をもつ恩田や大金持ち・倉田老人の力を借りて、危険をかいくぐりながら謎を解き明かしていく終盤はドキドキしっぱなしです。
ある程度予想はしていましたが、味方だと思っていた人間たちの裏切りも面白いところ。
マネーリテラシー
それからマネーリテラシーを高めるのにもうってつけの本です。もちろんフィクションですし、出版されてから15年ほど経っているため現実と異なる点も多々あると思いますが、「マネーロンダリング」や「オフショア」、「タックスヘイブン」などまったく無縁だった自分にとっては「こんな世界があるのか!」と視野を広げるきっかけになりました。
これを機に著者・橘玲さんの本でもうちょっとお金のこと勉強してみようかな。
キャラクターの魅力
さいごの魅力は、何といってもキャラクター。ぼくのお気に入りはインテリヤクザの黒木。実写化するとしたら遠藤憲一さんあたりに演じてもらいたいくらい渋い役です。
黒木が主人公の工藤に放ったことばが印象的でした。
あんたの悪いところは、どんなことにも算数のように答えを探すところだ。あんたのいる世界じゃ、1+1は必ず2になるかもしれない。だが、生身の人間はいつもそんなふうにわかりやすく動くわけじゃねえ。そこらの犬コロだって、殴ったり蹴ったりされても飼主の足元をキャンキャンいって舐めるじゃねえか
「あんたのいる世界じゃ、1+1は必ず2になるかもしれない。だが、生身の人間はいつもそんなふうにわかりやすく動くわけじゃねえ」
ぬるま湯の世界で生きてきたぼくも、このことばは覚えておかねばと思いました。まだ人に裏切られたり大きな挫折を味わったことはありませんが、生きていれば一度や二度はそんな場面に出くわすかもしれません。
世の中楽しいことやお気楽なことだけじゃないよな、追い詰められたら人間どうなるかわからないよな、と気付かされた名言です。
『マネーロンダリング』は、そんな「サスペンスのドキドキ感」×「マネーリテラシー」×「キャラクターの魅力」が味わえる小説でした。
お試しあれ。
タケダノリヒロ(@NoReHero)