【更新 2020/05/18】
児童文学や童話を大人になったいま読み返し、そこから教訓や新たな発見を得ようというシリーズ「おとなの児童文学入門」。
今回はグリム童話の『ラプンツェル』。ディズニー映画『塔の上のラプンツェル』の原作ですね。
読んでびっくりな原作のあらすじや、じつは「野菜」だった「ラプンツェル」の意味、グリム兄弟が何度も手直しを加えた性的描写について紹介しています。
内容を参考にしたのはこちらの本。
底本:「グリム童話集」冨山房、1938年12月12日発行
『ラプンツェル』をAudible(アマゾン運営の朗読サービス)で聴く(1冊目無料!)
アイキャッチ画像出典:<Jennie Park mydisneyadventures, Rapunzel and Flynn>を使用して作成
もくじ
『塔の上のラプンツェル』原作あらすじ・内容・ストーリー
まずは原作のあらすじを見てみましょう。
ラプンツェル(rapunzel)の意味=野菜⁉
- ある夫婦は長い間子どもが欲しいと願っていたが、ついに子どもができる
- 夫婦の家の窓からは、美しい花や野菜を作ったきれいな庭が見える
- その庭の持ち主は世間から恐れられている魔女。だれも中へ入ろうとしなかった
- ある日おかみさんが窓から庭を眺めると、美しいラプンツェル(rapunzel = 菜の一種)の生えそろった苗床が目につく
- あんな青々した、新しい菜を食べたらどんなに旨いだろうと思うと、食べたくってたまらなくなるおかみさん
- それからは毎日菜のことばかり考えていたが、いくら欲しがっても食べられないと思うと、病気になって、痩せて青くなってしまう
- 夫びっくり
- 妻「家の後方の庭にラプンツェルが作ってあるのよ、あれを食べないと、あたし死んじまうわ!」
えっと、なにから突っ込んでいいのやら…
まず引っかかるのが「ラプンツェル(菜の一種)」。
なに、ラプンツェルって、菜っぱなの!??
どいつからかたづけてやるかな…(シュウウーー)画像引用元:ドラゴンボール
本書では「ラプンツェル(菜の一種、我邦の萵苣(チシャ)に当る)」と書かれています。
チシャ、ノヂシャとは
「チシャ」はレタスのことですが、ラプンツェルは本来レタスではありません。
ラプンツェルは「ちしゃ」と訳されることがあるが、本来はキク科のレタス(ちしゃ)ではない。ラプンツェルと呼ばれる野菜はオミナエシ科のノヂシャ、キキョウ科のCampanula rapunculusなど複数存在する。
引用元:ラプンツェル – Wikipedia
ちなみに「ノヂシャ」はこんな野菜。かわいい花が咲くんですね。
あらすじに話を戻しましょう。
まず問題を起こすのがおかみさんです。
魔女の家にあるラプンツェルが食べたくて仕方なくなるものの、食べられないので病気になってやせ細ってしまいます。
そりゃ旦那さんもびっくりするわ。
で、その旦那さんに言うのが「あれを食べないと、あたし死んじまうわ!」ですからね。小杉か、おまえは(Ⓒちびまる子ちゃん)
ラプンツェルを連れていく魔女
- 夫「妻を死なせるくらいなら、まア、どうなってもいいや、その菜を取って来てやろうよ」
- 夫は魔法使いの庭へ。菜を抜いてきて、おかみさんに渡す
- おかみさんはそれでサラダをつくって食べる
- しかし、その味が忘れられないほど旨かったので、それを食べないと寝られないほどに
- 夫はもう一度取りに行くことに
- しかし魔女に見つかってしまう
- 夫が事情を説明すると、魔女はそれを許すかわりに、夫婦の産んだ子どもをもらうという交換条件を申し出る
- 夫は言われるとおりに約束
- おかみさんが出産すると、魔女が来て「ラプンツェル」という名前をつけて連れて行ってしまう
おかみさんが死ぬほど食べたかったラプンツェルを、心優しい旦那さんが取ってきてくれました。
しかし、おかみさんはあまりにも意地汚い美味しかったので、また食べないと寝られないほどに。どんだけ。
そしてまた取りに行く旦那さん。しかし魔女に見つかってしまいます。
で、その菜をあげるかわりに魔女がもらっていったのが、その夫婦の子ども「ラプンツェル」だったんですね。
髪の毛で魔女を引き上げるラプンツェル
- ラプンツェルは「世界に二人と無いくらい美しい少女」になる
- 十二歳になると、魔女に森の奥の塔の中に閉じ込められる。塔には梯子も出口もなく、頂上に小さな窓があるだけ
- 魔女が入るときは、ラプンツェルがその長く美しい髪を窓から四十尺垂らし、魔女はこの髪に捕まって登る
ラプンツェルは成長し、塔のなかに閉じ込められてしまいます。
その塔を魔女が登るときに使うのが、あの有名なラプンツェルの長い髪。
40尺ってことは約12mです。
王子の登場
- 2~3年経ち、この国の王子が偶然塔の下を通り、ラプンツェルの美しい歌声を聴く
- それから毎日歌を聴きに森へ出かけるが、あるとき魔女がラプンツェルの髪に捕まって登るのを目撃
- 魔女の真似をして声をかけると、髪がさがってきたので登ることに成功
- 生まれて一度も男性を見たことがないラプンツェルは驚くが、王子が歌に惚れ込んだことを優しく説明すると安心する
- 王子、突然のプロポーズ
- ラプンツェル、王子が若くて美しいので「あの婆さんよりはかわいがってくれそう」と思いOKする
- しかし塔から出られないので、王子に絹ひもを毎回一本ずつ持ってきてもらうよう頼み、それで梯子を編む
さあ、王子様が出てきました。ラプンツェルの歌声に惚れ込み、魔女のセリフを真似て塔を登ります。
そして突然のプロポーズ。いや、初対面ですけど。
しかしラプンツェルからはまさかのOK。その理由はこんな風に書いてあります。
王子が妻になってくれないかと言い出すと、少女は王子の若くって、美しいのを見て、心の中で、
「あのゴテルのお婆さんよりは、この人の方がよっぽどあたしをかわいがってくれそうだ。」
と思いましたので、はい、といって、手を握らせました。
めっちゃ打算的w心の声えぐい。しかも「若くって、美しいのを見て」ですからね。
にもかかわらず、実際に声に出した返答は「はい」のみ。
この「はい」と「あのゴテルのお婆さん~」は全然違う声で脳内再生されますね。
魔女にバレる
- 魔女はたいてい日中に来るので、ふたりは日が暮れてから逢うことに
- 魔女はしばらく気づかなかったが、あるとき王子よりも魔女の方が引き上げるのが大変だと口をすべらせるラプンツェル
- 魔女は怒って髪を切り落とし、砂漠の真ん中へ連れていき、悲しみと嘆きの底へ沈めてしまう
ところが、王子の存在が魔女にバレてしまいます!
なぜバレたのかというと、なんとラプンツェルが自ら口をすべらせてしまうんですね。
ねえ、ゴテルのお婆さん、何(ど)うしてあんたの方が、あの若様より、引上げるのに骨が折れるんでしょうね。若様は、ちょいとの間に、登っていらっしゃるのに!
隠す気ゼロかw
これであっけなく魔女にばれ、ラプンツェルは髪を切られて砂漠に連れていかれてしまいます。
失意の王子
- 王子が登ってくるが、そこにはラプンツェルではなく魔女が
- ラプンツェルにはもう二度と会えないと言われ、あまりの悲しさに王子は塔の上から飛び降りる
- 一命は取り留めたが、落ちた拍子にバラに引っかかり目をつぶしてしまう
- それからは見えない目で森の中を探りまわり、木の根や草の実を食べて、妻のことだけ考えて泣いたり嘆いたりするばかり
あるとき王子がやってくると、そこにはラプンツェルではなく魔女が。
彼女とは二度と会えないと言われた王子は驚きの行動に。
王子は余りの悲しさに、逆上(とりのぼ)せて、前後の考えもなく、塔の上から飛びました。
I can flyしちゃうんですね。よほど悲しかったんですね。
幸か不幸か一命は取り留めますが、バラで目をつぶし失明してしまいます。グリム童話のこのあたりの描写はやはりエグい。
再会するラプンツェルと王子
- 王子は数年間さまよい続け、とうとうラプンツェルが捨てられた砂漠までやってくる
- ラプンツェルは男と女の双子を産んで、砂漠の中で悲しい日を送っていた
- 王子に気づいたラプンツェルは、抱きついて泣く
- その涙が王子の目に入ると、目が見えるように
- 王子はラプンツェルを連れて国へ帰り、ふたりは幸せに暮らす
さあ、数年間もさまよい続けた王子は、たまたまラプンツェルの捨てられた砂漠にやってきます。
王子に抱きつくラプンツェル。その涙が王子の目に入り、なんと目が見えるように。
そのまま王子はラプンツェルを国へ連れて帰ります。
めでたしめでたし。
……
あれ?「男と女の双子」のくだりはなんだったの???
という疑問が残りますよね。ここには著者であるグリム兄弟の意図が隠されていました。
ラプンツェル原作の性的描写
Wikipediaを見てみると、こんなふうに書いてあります。
初版では主人公が夜ごと王子を部屋に招き入れて逢瀬を重ね、結果として妊娠。それがばれてしまったため放逐されたプロセスを詳細に書いているが、後の版では逢瀬シーンが最小限に、さらに性行為の暗示は全てカットされ、放逐の理由も外部の人間である王子を招き入れ、恋仲にまでなっていることをうっかり言ってしまったためとされ、後に自分が生んだ子供と暮らしている描写が挿入されることにより「妊娠」が発覚、という版に改変された。
もともとは性行為の暗示があったんですね。
それがカットされてしまったために、後にラプンツェルが生んだ子どもと暮らしている記述だけが浮いているように見えてしまったんです(本記事で「あらすじ」に使ったのは、1938年12月12日発行の「グリム童話集」冨山房を底本として現代語訳されたもの)。
じゃあなぜ著者のグリム兄弟は、最初からその筋書きでストーリーを作らなかったんでしょうか?
ラプンツェル物語の変遷
じつは『ラプンツェル』はグリム兄弟のオリジナルじゃないんです。
グリム兄弟がこのお話を最初に出版したのが1812年。
これは1790年にフリードリッヒ・シュルツによって出版された作品を改訂したものです。
で、このシュルツの作品は、1698年にフランスの作家ド・ラ・フォルスが発表した『ペルシネット(Persinette)』という童話がもとになっています。
さらにこの話も、ジャンバティスタ・バジーレというイタリアの詩人が1634年に出版した『ペトロシネッラ(Petrosinella)』というお話に由来します(『ペンタメローネ』という民話集に収録)。
つまり、このような変遷をたどっています。
- 1634年『ペトロシネッラ(Petrosinella)』ジャンバティスタ・バジーレ(イタリア)
- 1698年『ペルシネット(Persinette)』ド・ラ・フォルス(フランス)
- 1790年フリードリッヒ・シュルツ(ドイツ)
- 1812年『ラプンツェル(Rapunzel)』グリム兄弟(ドイツ)
参考:Rapunzel – Wikipedia
ヨーロッパに古くから伝わっていた物語を童話集のひとつとしてまとめたグリム兄弟(なので「著者」というより、正確には「編纂者」)。
しかし、『グリム童話』は兄弟の生前に7版まで改訂されました。書き換えの理由は、このように語られています。
文章が粗野である、話の内容・表現が子ども向きでない、あまりに飾り気がないといった批判を受け、以降の版ではこれらの点について改善が図られるようになった。具体的には、風景描写や心理描写、会話文が増やされ、また過度に残酷な描写や性的な部分が削除され、いくつかの収録作品は削除された。
引用元:グリム童話 – Wikipedia
7版まで改訂するなんて…グリム兄弟大変だったんですね…。
『ラプンツェル』の原型『ペトロシネッラ』
「表現が子ども向きでない」などといった批判を受けて改訂された『ラプンツェル』。
でもそうなると、もとのお話『ペトロシネッラ』がどんなものだったのか気になりますよね。
『ラプンツェル』では削除されていた箇所を一部抜粋します。
パスカドツィアは大変美しい女の子を産み落とし、パセリっ子と名付けました。というのも、その女の子の胸に見事なパセリ型のあざがあったからです。
引用元:ペトロシネッラ
「ペトロシネッラ」は「パセリっ子」って意味なんですね(なにそれ)
月と星の無い夜、ペトロシネッラは鬼女を薬で眠らせます。約束の時間になると王子様がやってきて口笛を吹き、下ろされたペトロシネッラの髪を掴んで「さあ」と言いますと、小窓まで引き上げられました。その後は、例の胸のパセリをご馳走にして二人で愛の饗宴を催し、夜明けになると王子様はまた黄金の梯子を伝って帰っていきました。
引用元:ペトロシネッラ
「例の胸のパセリをご馳走にして二人で愛の饗宴を催し」
これはすごい。
まさかのここで回収される「胸元のパセリ型のあざ」という伏線。
「愛の饗宴を催し」っていう表現も品があっていいですね。使っていこう。
てか鬼女(魔女)を薬で眠らせるって、かなり用意周到ですパセリっ子。
こんなことが数回繰り返されますと、鬼女の使っている女中に気づかれてしまいました。この女ときたら告げ口屋のでしゃばりで、鬼女に余計な口出しをしたのです。曰く、ペトロシネッラがさる若者と愛し合っております。あの耳障りな物音からして相当関係が進んでいるようですわ。
引用元:ペトロシネッラ
女中「あの耳障りな物音からして相当関係が進んでいるようですわ」
昼ドラかよ。
グリム童話の『ラプンツェル』や、ディズニーの『塔の上のラプンツェル』とは全然違って面白い!
こちらからぜひ読んでみてください。
以上、グリム童話『ラプンツェル』に関する考察でした!
『ラプンツェル』をAudible(アマゾン運営の朗読サービス)で聴く(1冊目無料!)
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グリム童話『ブレーメンの音楽隊』原作あらすじ・教訓・担当楽器の謎