ルワンダの近所に、結婚はせずに実家で子どもを育てる10代後半の女性(Aさん)がいます。いわゆる「未婚の母」ですが、女性と言うより「女の子」と言ったほうがしっくりくるような、まだ若い方。
2歳になるその赤ちゃんも、最初はAさんの妹だと思ってたほど。その子がAさんの娘だと分かってからは「じゃあ夫はどうしたんだろう」という疑問がずっとあったんですが、関係が深まってきたのでようやくその兄(大学生)に話を聞くことができました。
彼によると、相手の男は妊娠させてしまったけど、経済的に養えないから結婚しなかったんだとか。ただでさえ職が見つけづらいルワンダ。失業率は3.4%と言われています(New Times, 2015)が、農村部で暮らしている感覚からすると10%くらいあってもおかしくありません。きちんと学校を卒業した人でも仕事を得るのが難しいのに、当時学生だったのならなおさらです。
「相手の男との関係は続いてるの?」
「ぼくにも分からないよ。本人に聞いてみて」
「さすがに本人には聞けないよ!すごくセンシティブなことだからね…」
「まあそうだね。でも、きっと関係は続いてないんじゃないかな」
相手の男は今、どんな想いで暮らしてるんだろうか。
その娘が、抱っこするのも大変なくらい大きくなってきてることを知ってるんだろうか。
Aさんが日ごろどんな想いでその娘にご飯を食べさせたり寝かしつけたり叱ったりしてるのか、少しでも考えたことはあるんだろうか。
そんなことをその男が考えたところで状況はなにも変わらないんですが、いまごろどこかでのんきにビールでも飲んでるんじゃないかと思うと、おなじ男として悔しいし悲しいし腹立たしい。
2歳になるその娘は何にもなくてもキャッキャと笑ったり、音楽に合わせて飛び跳ねたり(全然跳べてないけど)本当に可愛くて、Aさんの母親や兄妹みんなから愛情を受けて育っています。
家族のアイドルであるその娘にも、妊娠させておいて自分は何もしないような男の遺伝子が流れてるんだと思うと複雑な気分ですが、その娘が愛らしいことに変わりはないし、もちろんなんの罪もないんですよね。
「避妊を知らないわけじゃないよね」
「うん、もちろんルワンダの人たちもみんな避妊はしなきゃいけないって知ってるよ」
「じゃあコンドームが高くて買えないとか?」
「そんなことないよ。買えないわけじゃないんだけど、そういうムードになったら麻薬にかかったようになっちゃう(理性が飛んじゃう)からかな」
そしてAさんのお兄ちゃんはこう続けました。
「それがさっき『いまは彼女が欲しくない』って言った理由だよ」
Aさんの話をする前に、軽い気持ちで「恋人はいないの?」と聞いていたんです。すると彼は「いまはいらないよ。大学を卒業して、仕事が見つかってからでいいかな」と言っていました。
ぼくはてっきり、シャイなだけで恥ずかしいからそう濁してるんだと思ったんですが、自分の妹の様子を見てそう思うようになったようです。
「でもきちんと避妊したり、そもそもそういう行為をしなければ大丈夫だよ。ガールフレンドがいたらきっと楽しいよ」と言うと、「そうだねー」と笑ってはいたものの、やはり彼の意志は硬いようでした。
わかってはいるものの、自制が効かなくなるのを恐れてそもそも恋人をつくらないお兄ちゃん。そして、実際に自制が効かなくなり、Aさんを妊娠させてしまった元彼氏。
残念ながらどちらの気持ちも自分には分かってしまいます。それくらい性欲というのは厄介なもの。
だからといって「じゃあしょうがないね」で済まされることではなく、たった一瞬の「まあいっか」で生まれるものはあまりにも大きい。
ルワンダではシングルマザーをよく見かけます。ほんとに多い。理由としては23年前に起こったジェノサイド(大量虐殺)が挙げられますが、Aさんのようなケースもたくさんあるはずです。
「The demographic and health survey」によると、10代の妊娠率は7.3%(New Times, 2015年)。そしてこの数字は減少するどころか、2010年の6.1%から増えています。集会ではよく10代の若者向けに性についての話もされていますが、状況は芳しくないようです。
これはルワンダに限った話ではないし、アフリカだけの問題でもありません。自分にだって起こり得ること。
100%祝福されて産まれてくるわけではない赤ちゃんがいるというのは、やっぱり悲しい。でも、少なくとも、ぼくはAさんの娘にこのルワンダで出会えてすごく幸せな気持ちになれたし、きっとみんなも「産まれてきてくれてありがとう」と思ってるはず。
彼女がすくすくと育って、幸せな人生を送れることを願います。
そしてこの子どもたちが幸せに生きられる社会をつくれるように、すこしでも力になれたらと思っています。
タケダノリヒロ(@NoReHero)