2019年10月4日(金)夜、ルワンダ北部県ムサンゼ郡で、14名が死亡する襲撃事件が発生しました。
事件の概要と、ルワンダ政府からの発表、ルワンダ在住者から見た国内の様子、推測される背景をお伝えします。
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事件の概要
事件の概要を、複数のソースからまとめます。
外務省 海外安全ホームページ 10月5日
- 昨夜,ムサンゼのキニジ(ボルケーノ国立公園付近)で武装勢力による襲撃事件があり,住民が少なくとも8名死亡,複数人が怪我を負う事件が発生しています。
- 武装組織はFDLRのメンバーの可能性があるということですが,詳細については現在確認中です。キニジはゴリラツアーで有名な場所ですが,事態が収束し,安全が確保されるまでは近づかないよう心掛けて下さい。
The New Times(ルワンダ地元紙)10月5日
- ヴィルンガ国立公園に隣接するキニギ(Kinigi)で、武装した襲撃者によって14名殺害、18名負傷
- 2019年10月4日(金)午後9時半ごろに発生
- 民間人の服装だったが銃やナイフを所持しており、人々を無差別に攻撃
- 生存者は軍隊や警察などの治安部隊がすぐ介入しなければ、死傷者はもっと多かっただろうと述べた
- 住民「軍隊と警察は、攻撃者がさらに危害を加える前に撃退した」
引用元:Eight dead in foiled attack in Musanze district | The New Times | Rwanda (Published : October 05, 2019 | Updated : October 07, 2019)
アルジャジーラ・10月7日
- ルワンダの人気観光地で14名が死亡
- 19人の襲撃者が殺害され、他の者は逃亡中
- 5人の襲撃者が逮捕された
- この地区はゴリラを見るために、ボルケーノ国立公園を訪れる観光客に人気。観光客が殺された人たちの中にいたかどうかは不明
- 数十の反政府勢力グループが鉱物の豊富なコンゴ民主共和国東部で活動しており、ルワンダは過去に繰り返し攻撃されてきた
引用元:Attack in popular Rwandan tourist region leaves 14 dead | News | Al Jazeera
The New Times(ルワンダ地元紙)10月7日
- 襲撃に加担した5名は、FDLR(ルワンダ解放民主軍)に属しウガンダを通じてテロリストのグループに加わったと供述
- FDLRの一派であるRUD Urunanaに属し、RNC(ルワンダ国民会議)と同盟を結び、P5と呼ばれるグループを形成
- 5人の容疑者は、メディアに攻撃を実行した45人の攻撃者の一部であると述べた
- 東部県キレヘ郡出身のエマニュエル・ハキジマナ(27歳)「昨年3月ウガンダで個人的にFDLRに参加した。コンゴ民主共和国の金鉱山での仕事を約束してくれた人に雇われた」「コンゴ民にいる間、FDLRに属していることに気づいた。それから3か月のトレーニングを受けた」
- 「私たちの司令官(Major Gavana / Governor)は、ルワンダを解放することが主な使命であると言っていた。私たちが簡単に侵入できるように、警備員とパークレンジャーを撃ち殺すブリーフィングがあった」
- 逮捕者の中には、ルワンダ大学の経営学部を卒業したテオネステ・ハブムキザがいた。ブレラ郡出身のハブムキザは、ウガンダのマケレレ大学で修士号を取得する際にFDLRに採用されたと語った
- 「私はFDLRに参加するように裕福な人から勧められた。彼らが国を占領すると、私は報酬の高い仕事や他のインセンティブで報われると言った」
- 国連は最近、FDLRがRNCおよびその他のテロリストグループと協力してルワンダを不安定化したと述べた
- 国連は、P5がコンゴ民のフィジ(Fizi)とウビラ(Uvira)地域で活動しており、ブルンジとウガンダが反乱グループの主要な供給源であり、戦闘員の募集に対する地元および外部の支援を受けていると報告書で述べた
- FDLRは、100万人以上が亡くなったツチ族に対する1994年のジェノサイドの主導者だとされている
- 引用元:FDLR behind Musanze attack, say assailants | The New Times | Rwanda
フィジ(Fizi)
ウビラ(Uvira)
最新の情報によると、FDLR(ルワンダ解放民主軍)がRNC(ルワンダ国民会議)と同盟を結んで犯行に及んだとされています。
ゴリラツアーは通常営業
この地域、ムセンゼ郡はルワンダのもっとも主要な観光である、マウンテンゴリラのトレッキングツアーの開催地です。
しかし、RDB(ルワンダ開発局)は「RDBは一般市民に、観光サービスがボルケーノ国立公園およびルワンダの他のすべての国立公園とアトラクションで引き続き正常に機能していることをお知らせします。 ボルケーノ国立公園へのすべての訪問者は、引き続き安全です」とアナウンスしています。
ルワンダ在住者から見た国内の様子
わたしが住んでいる首都のキガリは事件前後で特にかわらず平和な日々が続いています。
ただし、ルワンダは四国の1.5倍程度と非常にちいさな国です。事件のあったムサンゼも車で3時間ほどあれば行けてしまう距離なので、コンゴ民との国境沿いで事件が起こったということは、それがキガリで起きてもおかしくないよな……と思っています。
ちいさな変化で言えば、1ヶ月ほど前からショッピングモールでの警備が強化されています。
以前から入場時に荷物と体のチェックはあったのですが、それが二重になったり、駐車場に入るときに念入りに車内を調べられるようになったりと、ただ買い物をしたいだけの民間人にとってはかなり面倒なレベルで検査するようになりました。
フツ族司令官殺害への報復?
ここからは噂ベースの推測になりますので、話半分でお読みください。
9月中旬にFDLRの司令官がコンゴ民の軍隊によって殺害されるというニュースが出ています。
- コンゴ民の軍隊が、ルワンダ・フツ反乱軍(FDLR)の指導者シルベストル・ムダクムラを射殺
- 国際刑事裁判所は、戦争犯罪容疑で彼の逮捕を求めていた
- ヒューマンライツウォッチは、FDLRの戦闘員が2009-10年のコンゴおよびルワンダ軍との紛争で約700人の民間人を殺したと述べた
- ルワンダにいる間ムダクムラは大統領警備隊の副司令官であり、1994年のツチ族少数派に対するジェノサイドの際に北ルワンダの大隊を率いていた
- 彼は他の警備隊員たちとコンゴ民に逃げ、FDLRとして知られるようになったグループを形成した。FDLRはコンゴ政府と他の武装グループに対して定期的な戦争を行った
- 2012年国際刑事裁判所は、コンゴ東部での残虐行為の疑いで、約65歳と思われるムダクムラに逮捕状を発行。2005年から国連制裁の対象となっていた
引用元:DR Congo says Hutu militia commander shot dead | News | DW | 18.09.2019
先日知人と話していたときに、「最近ルワンダ国内の警備が厳しくなったのは、この反乱軍指導者が殺されたことがきっかけじゃないか?」という話題になりました。
9月中旬、反乱軍指導者の殺害はルワンダ政府が裏で手を引いてコンゴ民に殺させた?→ルワンダが反乱軍からの報復を恐れて国内の警備を強化→10月頭、反乱軍指導者の報復としてムサンゼで事件発生?
という筋書きです。これはあくまでも噂かつ単なる推測ですが、いずれにせよ25年前のジェノサイドはいまも政府対反乱軍という形でルワンダに影を落としています。
私たちにできること
今回起きた事件は罪のない民間人の殺害という許されざる行為ですが、そこに至った経緯にも目を向けなければ解決も予防も実現はしません。
容疑者たちは「金鉱山での仕事を約束された」「報酬の高い仕事や他のインセンティブで報われると言われた」と供述しているように、見返りを求めて反乱軍に加担しています(もしその動機が真実であれば)。
彼らのくわしいバックグラウンドまでは明らかにされていませんが、経済的格差や社会への強い不満を感じている若者たちが増えれば、世の体制を覆そうと目論む反政府組織に感化されてもおかしくありません。
ルワンダに住むいち市民として、まずはまわりの人々の身の安全が第一ですが、それだけではなく「時代や発展に取り残される人たち」がこれ以上生まれないように、ビジネスで、ソーシャルで、さまざまな角度から取り組んでいかなければと考えさせられるできごとでした。
世界で起きている事件は、すべて自分たちの喉元にまで届き得ます。身のまわりの平和を守るためにも、他人ごとではいられません。