【小説】『1984年』あらすじ・ネタバレ・考察・解説【ジョージオーウェル】

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【更新 2021/08/21】 タケダノリヒロ( @NoReHero

タケダノリヒロ(@NoReHero)です。ジョージオーウェルの『1984年』を読みました。

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トマス・モアの『ユートピア』や、スウィフトの『ガリバー旅行記』などディストピア小説の系譜を引く作品で、全体主義国家によって統治される近未来の世界が描かれています。

「ニュースピーク」「ビッグブラザー」「二重思考」など、考えたこともなかった概念を提示されて、自分の常識を疑い、見ている世界を広げてくれるような作品でした。全体としては救いようのない世界観で、終始暗いトーンで話が展開していくんですが、そんな物語だからこそ感じたのはオーウェルの「人間賛歌」的な価値観。

超かんたんでネタバレなしのあらすじ、もう少し詳しいネタバレありのあらすじ本書を読んだ感想や考察などをまとめました。

『1984年』とは・あらすじ

『1984年』はイギリスの作家、ジョージ・オーウェルによって1949年に刊行された小説です。1998年に「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100」、2002年に「史上最高の文学100」に選出されるなど非常に評価が高く、世界の文学・思想・音楽に多大なる影響を与えています。

参考:Wikipedia

たとえば、伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』や『モダンタイムス』に描かれている監視社会は、「テレスクリーン」によって24時間監視体制におかれている『1984年』の世界に着想を得ていると言われています。

それからレディオヘッドの『2+2=5』。「2+2=5」というのは、本当はまちがっていることでも独裁政権である「党」が「正しい」と言えば「正しい」ことになってしまうことを表す、本書の象徴的な表現です。

自由とは二足す二が四であると言える自由である。その自由が認められるならば、他の自由はすべて後からついてくる。

引用:1984年

最近では日本の若手アーティストぼくのりりっくのぼうよみも、『Newspeak』という作品を発表しています。

ニュースピーク」とは、『1984年』の世界で党が異端思想を排除するために、極限まで語彙や単語の意味を絞り込んだ言語のことです(通常の英語は「オールドスピーク」と呼ばれる)。曲中にも「オーウェル」という歌詞が登場します。

このようにさまざまな作品に影響を与えている『1984年』。どんな話なんでしょうか。舞台やあらすじを説明していきます。

『1984年』舞台

ときは1984年。世界はオセアニア、ユーラシア、イースタシアの三大国によって分割統治されています。


『1984年』内の世界地図 画像出典:Wikipedia

オセアニアは「イングソック」(English Socialismの略)というイデオロギーにもとづいた一党独裁体制で、支配しているのは「ビッグブラザー」。

階級社会になっており、ビッグブラザーを頂点に、エリート層の「党内局」の人間、中間層の「党外局」の人間、最下層に「プロレ(プロール)」が位置づけられています。


オセアニアのヒエラルキー 画像出典:Wikipedia

街中には「ビッグブラザーはあなたを見ている」という巨大なポスターがいたるところに貼られ、市民はテレスクリーンと呼ばれるテレビと監視カメラを兼ねたような装置で24時間監視下に置かれています。


ビッグブラザーのポスター 画像出典:Wikipedia

『1984年』あらすじ(ネタバレなし版)

『1984年』のあらすじをネタバレなし・3行で表すとこんな感じです。

・ 主人公は党外局員として働くウィンストン
・ウィンストンは党の監視下の生活や独裁体制に疑問を抱く
・ウィンストンは同様の思想を持つ党員と出会い、党の転覆を目論む「ブラザー同盟」に加盟するが…

『1984年』あらすじ(ネタバレあり版)

こちらはネタバレありのもう少し詳しいあらすじ。

・ウィンストンはある女性につけられていると気づき、彼女が思考警察なのではないかと疑う
・彼女はジュリア。ウィンストン同様党に反発心を持っており、彼の思想を見抜いて好意を抱いていた
・ウィンストンはジュリアに告白され、隠れ家としていたチャリントンの骨董屋で逢瀬を重ねる
・かねてから実は反体制派なのではないかと思っていた党内局員のオブライエンが、ウィンストンに接近
・オブライエンはブラザー同盟の一員であり、ウィンストンとジュリアを仲間に引き込む
・ウィンストンとジュリアは相変わらずチャリントンの骨董屋で密会していたが、そこにはテレスクリーンが仕込まれており捕まってしまう
・実はオブライエンはブラザー同盟ではなく、ウィンストンにカマをかけていただけだった
・ウィンストンはオブライエンから拷問を受け、ジュリアを裏切る
・「正統」な人間となったウィンストンは釈放され、心からビッグブラザーを愛するようになる

結末には何らかの救いがあるのかなと思いながら読み進めていたんですが、結局ハッピーエンドにはなりませんでした。そもそもなにが「ハッピー」なのか、という当たり前の概念すらあらためて見つめ直さなければいけないような物語でしたが。

『1984年』感想

『1984年』は、考えたこともなかった概念を提示して、思考の幅を広げてくれる作品でした。

ビッグブラザーとゴールドスタイン

主人公ウィンストンの住む国・オセアニアは「ビッグブラザー」と呼ばれる独裁者によって支配されており、民衆にとっては絶対的な存在です。一方「人民の敵」とされるのがエマニュエル・ゴールドスタイン。独裁政党を打倒するために、どこかに潜伏して陰謀をめぐらせているとされています。

本書では非常に重要や役割を担うこのビッグブラザーとゴールドスタインですが、実は作中にはいちども登場しません。あくまでその名前が語られているだけで、実在するかどうかも疑わしいんです。

国民が「テレスクリーン」と呼ばれる監視・盗聴機能つきの機械を通して毎日参加しているのが「二分間憎悪」。これに国家転覆を目論む売国奴としてゴールドスタインが登場して、文字どおり国民は「二分間憎悪」を浴びせ続けます。

ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』では、人々が「宗教」や「国家」などの「虚構」を共有することによってひとつにまとまったことが指摘されていましたが、まさにこの「ビッグブラザー」と「ゴールドスタイン」は虚構そのものですよね。

ビッグブラザーが考えていることが現実であり、それを主人公も徐々に受け入れるようになってしまう、というのも恐ろしいところです。人間の思考力・想像力には際限がないからこそ、諸刃の剣と化してしまうんですね。

ニュースピーク

極端に単語・文法を単純化した新たな言語「ニュースピーク」。そのほうが効率が良さそうな気もしますが、真の目的は、「ことばを減らすことで『考えること』をできなくして、思想を統制する」というものでした。

ことばは思考力という土台があってこそ生まれるものですが、逆に思考自体もまたことばから生まれるんですよね。「ニュースピーク」という考え方を知り、豊かな語彙や表現の重要性を逆説的に知ることができます。

二重思考

2+2=5」のように、「相反し合うつの意見を同時に持ち、それが矛盾し合うのを承知しながら双方ともに信奉すること」。つまり、「実際は間違っていると知っていることも、正しいと心から信じること」。

「二重思考(Double think)」はニュースピークによる語法で、オールドスピーク(我々の知る英語)では「リアリティー・コントロール(真実管理)」と呼ばれます。

心の中で悪いことを考えながら良いことをおこなう「偽善」とはまったく別のもので、二重思考では矛盾することがらを心から信じています。なので党内局員も「党」の目的である「階層構造の維持、支配と不平等と非自由の永続化」という矛盾を疑うことなく信奉することができるんです。

人間賛歌の物語

さまざまな洞察を与えてくれる『1984年』ですが、個人的にもっとも感銘を受けたのはオーウェルの「人間」や「生」に対するまなざしです。

党の体制下で無味乾燥な生活を続けてきた主人公の目には、市井の人々の何の変哲もない「暮らし」がとても美しく映ります。

彼女特有の姿勢──太い腕が物干しに伸び、臀部が雌馬のように力強く突き出ている──を見ているうちに、彼はこれまで気づかなかったが、彼女を美しいと感じた。五十歳の女性の肉体、出産のたびに途方もない大きさにまで膨張し、その次には、働きづめで硬化し節くれだった挙句、熟れ過ぎたカブのように肌理の荒くなった肉体が美しいはずなどない、彼はずっとそう思い込んでいた。しかし彼女は美しいのだ

(中略)

彼が彼女に対して覚えた神秘的な崇敬の念はどういうわけか、林立する煙突の向こうの果てしない彼方まで広がる淡くて雲一つない空の姿と混じり合っていた。空は誰にとっても同じもの、ユーラシアでもイースタシアでもここと同じなのだと考えると不思議な気がした。そしてこの空の下で暮らす庶民もまたみんなよく似ているのだ

その一方で、党の中枢として動いており、幸せに満ちていてもいいはずのオブライエンの顔はひどく疲れ切っています。

ウィンストンは前にも驚いたのだが、オブライエンの顔に浮かんだ疲労の色に、またしても唖然とした。逞しく、肉付きのいい、情け容赦のない顔で、知性と抑制された情熱といったものに溢れていて、目の前にするとこちらが無力感を感じてしまうのだが、しかしその顔は疲れ切ってるのだ。目の下は腫れて、頬骨の下の皮膚が垂れている。

洗濯をする50過ぎのおばさんを美しいと感じ、権力者のオブライエンには疲労感しか感じない。この違いは「人間らしく生きる」という点にあるのではないでしょうか。そして、その「人間らしさ」とは「感じること」だと示唆されています。

生きているのが楽しくないの? 感じることが好きじゃないの?──これが自分だ、これが自分の手だ、これが自分の足だ、自分は実在する、自分は抜け殻ではない、自分は生きているって。

主人公が「生きていたい」と思い始めたのも、ジュリアの告白を受けてからでした。

あなたが好きです”〟ということばを見てからというもの、生きていたいという欲望がこみあげてきていて、つまらない危険を冒すことが急に愚かしく思えるのだった。

これも恋愛感情を「感じる」ことが「生きる」ことにつながっているとわかる場面ですね。

著者ジョージオーウェルの半生

このようなオーウェルの価値観はどこから来ているのでしょうか?

オーウェルは1922年から5年間ビルマ(現ミャンマー)で警官として勤務。帝国主義の片棒をかつぐ仕事を激しく嫌うようになって、辞職します。

1933年に最初の著作『パリ・ロンドン放浪記』を刊行する前に、1年ほど浮浪者に混じってロンドン周辺を放浪

さらに1936年にはスペイン内戦に参加。ソ連からの援助を受けた共産党軍のスターリニストの欺瞞に義憤を抱いたそうです。

参考:Wikipedia

「希望があるとするなら」──とウィンストンは日記に書いた──「それはプロールたちのなかにある

「プロール」つまり「市井の人々」への愛は、オーウェル自身の帝国主義やスターリニストへの反感、ロンドンの浮浪者たちとの交流から生まれたのかもしれませんね。

暗く救いのないディストピアを描くことで、「人間らしく生きること」の美しさを我々に思い出させてくれるオーウェルの『1984年』。名作として語り継がれる理由が、すこし分かった気がします。

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