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小説『アルジャーノンに花束を』要約・感想~お前には友だちがいるってことを覚えといてもらいたいな。それを忘れるなよ~

小説『アルジャーノンに花束を』を読みました。

その要約と感想。途中からネタバレありです。

アルジャーノンに花束を〔新版〕

超有名なのでいまさら賞賛するのも恥ずかしいですが、これまで読んだ小説のなかで間違いなく個人的ベスト5に入るくらい好きな作品でした。

『アルジャーノンに花束を』要約

あらすじ・ネタバレなし

  • 主人公はチャーリー・ゴードン、32歳
  • チャーリーは幼児程度の知能しかもっておらず、亡き叔父の親友であるドナーが営むパン屋で働いている
  • チャーリーはニーマー教授やストラウス博士らの手術を受け、天才的な知能を手に入れる(その手術の「経過報告」としてすべてのストーリーが語られる)
  • アルジャーノンは、チャーリーとおなじ手術を受けて知能を高めたハツカネズミ
  • 迷路による実験で当初チャーリーはアルジャーノンにまったく勝てなかったが、次第にアルジャーノンを負かすようになる
  • 頭の良くなったチャーリーは、まわりの人間の愚かさに気づき、過去の家族との辛い記憶を思い出す
  • 天才的な知能と、幼いままの精神とのバランスが取れず苦悩するチャーリー
  • そんな彼をサポートする女性教師アリス・キニアンや、隣人のフェイ・リルマン
  • チャーリーは手術を受けて天才的な頭脳を手に入れた人間として、世界的に有名になるが…

あらすじ・ネタバレあり

  • 天才になったチャーリーは寛容さを失い、次第に孤立していく
  • アルジャーノンの行動に異変が現れる
  • チャーリーはアルジャーノンの変化の原因を突き止め、自身におこなわれた手術の欠陥を発見する
  • 手術は一時的に知能を高めるものの、社会性を損ない、ピークに達した知能はやがて元よりも下がってしまうものだった
  • 次第に知能が低下していくチャーリー
  • ついに亡くなってしまうアルジャーノン
  • チャーリーは妹や母、ドナー、アリスなど周囲の人間と理解を深める
  • チャーリーは自分の行く末を受け入れ、自ら障害者施設へ向かう
  • チャーリーの最後の経過報告は「どーかついでがあったらうらにわのアルジャーノンのおはかに花束をそなえてやてください」ということばで締めくくられる

『アルジャーノンに花束を』感想

この作品の好きなポイントを3つ挙げるとしたら、この3点。

  • 「アルジャーノンに花束を」というタイトルの意味
  • 「けえかほうこく」の変遷
  • 知識を求める心と愛情を求める心のバランス

以下、ネタバレありです。

「アルジャーノンに花束を」というタイトルの意味

まずは何といっても、このタイトルですよね。響きだけでも素敵なんですが、まさかこんな形で登場するとは。

あらすじでも触れましたが、小説の最後はこう締めくくられています。

ぼくわこれから行くところで友だちをいっぱいつくるつもりです。

ついしん、どーかついでがあったらうらにわのアルジャーノンのおはかに花束をそなえてやてください。

これを読んだ瞬間「あーーーー」と唸りました。そういうことかー…と。これ、「小説の最後の一文グランプリ」があったら文句なしで優勝でしょ。

なにも単純に「ふーん…チャーリーとアルジャーノンは仲良しだったんだねー」という関係性だけを意味しているわけではありません。

知能を手に入れたチャーリーは、自分でも気づかぬうちに人を見下すようになってしまいました。しかし終盤では、下がりゆく知能と葛藤しながらも他者を受け入れることを学んでいきます。

そして、最後の最後に書いた文章がこれ。ライバルであり世界で唯一おなじ経験を共有したアルジャーノンのことを書いたこの文章から、チャーリーが他者への思いやりを取り戻したということがわかるんですね。

「取り戻した」と言っても、手術を受ける前のチャーリーと、手術を受けて人間の愚かさを知ったうえで受け入れることができたチャーリーとでは、その思いやりの質や重みが異なります。

そんな背景がぎゅっと凝縮されていて、『アルジャーノンに花束を』という名の花束を、自分自身がもらったような気分になるすばらしい一文でした。

「けえかほうこく」の変遷

二つ目は、「経過報告」の変遷。チャーリーが次第に知能を高めていく様子が、彼の視点を通じて描かれており、その成長や苦悩をリアルに感じることができます。

序盤は句読点すら使えず、間違いだらけの文章で、読んでいてものすごくほっこりさせられるチャーリーの「けえかほうこく」。それから徐々にきちんとした文章になり、使うことばが難しくなり、内容もぼくのような凡人では理解できないようなものへと徐々に徐々に変わっていきます。

これは翻訳するのがさぞかし大変だったろうなと思いましたが、やはり訳者あとがきにその苦労が綴られていました。

最初は英語のスペルが間違っていることばを、存在しない漢字に置き換えようとしたそうです。でも当時は活版印刷だったために、活字をひとつひとつ作らなければならず、大変な手間がかかるため断念。

そんなときに訳者の小尾芙佐さんは、自身が大好きな山下清の文章を思い出し、そのスタイルを取り入れることにしたんだとか。

一人称で語られることによって物語にリアリティをもたせている、この経過報告。原文のニュアンスをできるだけくずさないように、かつわかりやすく伝えてくださった翻訳者の小尾さんに感謝ですね。

あとがきに書かれていた、ダニエル・キイスと小尾さんの交流にも泣かされました。

知識と愛情のバランス

「知識を求める心が、愛情を求める心を排除してしまうことが多い」というのが、この作品のテーマのひとつ。

著者は知能を高めた主人公チャーリーに、このように語らせています。

知能は人間に与えられた最高の資質のひとつですよ。

しかし知識を求める心が、愛情を求める心を排除してしまうことがあまりにも多いんです。

これは、家庭や学校、職場における虐待やいじめ、さらには国家間の争いが起こるのはなぜだろう、と著者が考えたときに得た洞察です。

「日本語版文庫への序文」では本人のことばでこのように語られています。

知識の探求にくわえて、われわれは家庭でも学校でも、共感する心というものを教えるべきだと。われわれの子供たちに、他人の目で見、感じる心を育むように教え、他人を思いやるように導いてやるべきだと。

自分たちの家族や友人ばかりではなく――それだったらしごく容易だ――異なる国々の、さまざまな種族の、宗教の、異なる知能レベルの、あらゆる老若男女の立場に自分をおいて見ること。

これを子どもたちや自分自身に教えることで、憎しみや暴力を減らし、すべての人々にとってもっと住みよい世界を築くことができるのではないか、というのが著者のメッセージです。

「頭が良くなれば、もっとみんなと仲良くなれるんじゃないか」と思って手術を受けたチャーリー。彼はみるみるうちに知能を高めますが、当初の想いとは裏腹に友だちを失い、孤立してしまいます。

学ぶこと、知らない世界を知ることの尊さ。それと同時に他者への「共感する心」を忘れないことの大切。彼の姿を通じて、そんなことを痛いほど感じることができました。

好きなエピソード+α

このへんで締めようかと思ったんですが、もうひとつだけ!

パン屋のいぶし銀リーダー、ギンピイさん。彼の悪事にチャーリーが気づいてしまったシーンは、心のささくれに触れられたようでした。

人は完全ではありません。どんなにいい人でも他人には見せない一面があるもの。影があるからと言って、それだけで一概に「悪人」だとは言えないんですよね。

知能が低下してパン屋に復帰したチャーリーが、さっそく新入りにいじめられてしまった時、「お前には友だちがいるってことを覚えといてもらいたいな。それを忘れるなよ」というギンピイさんのことば、最高でした。

あとがきに書いてあった、著者がこの作品を出版社に持ち込んだとき、「ハッピーエンドにすれば掲載する」と言われたというエピソード(結局友人であるフィル・クラス{ウィリアム・テン}のアドバイスに従い、そのまま世に出す)。

たしかにまったくのハッピーエンドだとは言えませんが、こういったギンピイさんや妹、アリスなどとの関係性を経て、チャーリーは過去の葛藤を昇華し、十分幸せな結末を迎えられたと思います。

子どもができて、その子が高校生くらいになったらぜひ読んでもらいたいなと思えた本でした。このレビューを書き終えてもなお、雨の日の紅茶のようなあたたかい余韻に浸っています。

ありがとうチャーリー。ありがとうアルジャーノン。

タケダノリヒロ(@NoReHero

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